理想的な鏡筒トラスとは、たわまず、剛性が高く、組み立てが簡単で、軽量なものだと私は考えています。 そこでここでは自作60cmドブソニアン計画の構成要素のうち、鏡筒トラスについて検討します。

  1. トラス棒の本数 <設計変更>
  2. 6本ジャッキ <設計変更>
  3. トラス棒の重量
  4. トラス棒の長さ
  5. トラス棒の直径 <設計変更>
  6. トラス金具 <設計変更>
  7. セルリエトラス
  8. シュラウド

4.9.1. トラス棒の本数 <設計変更>


結論(設計変更):トラス棒は8本とする。


(過去の結論:自作60cmドブソニアン計画ではトラス棒は6本とし、組み立て時間を短縮する。)


トラス棒はトップリングを支える必要十分な本数があれば良いはずです。 そのためトラス棒の本数は原理的には6本で必要十分です。 8本とすると組み立て時間が余計に掛かってしまうことになります。 そこで自作60cmドブソニアン計画ではトラス棒の本数は6本とすることにします。

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設計変更

当初トラス棒の本数は6本とし、また 4.9.2. 6本ジャッキ の原理でトラスの視点を一致させることで高い剛性を狙いましたが、実際には出来上がった6本トラス(直径1.0")は剛性が低く、振動(固有振動数: 2.6~3 Hz)や光軸ズレ(最大8mmのズレ)が生じていて全くダメでした。 そこで Aurora Precision で販売されているトラス金具を購入し、8本トラス(直径1.0")に設計変更しました。 設計変更後は固有振動数は 5.1 Hz に減少し、また光軸ズレも最大で 1 mm 程度に収まりました。 よって直径1.0"の6本トラスでは剛性が不足していてダメだったようです。

さらに組み立て時間の短縮を考えて6本トラスとしたものの、構造が悪く勝手に開いてしまうため、かえって組み立てに時間がかかってしまっていました。 よって色々と考えて6本トラスのほうが合理的だと思って作ったのですが、剛性、および組立の容易さから、トラス棒はオーソドックスに8本トラスとするのが良いと考えを改めました。 (なおトラス棒を十分に太くして剛性を確保し、かつ構造を工夫して勝手に広がらないようにできれば、6本トラスでも問題はなかったとは思います。 要は作りやすさの問題で、私の工作レベルでは8本トラスの方がメリットがデメリットを上回っていたのだと思います。)

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追記(たわみ量について)

トラス棒のたわみ量について考えます。 単純片持ち梁のモデルを考えると、たわみ量は荷重の1乗、梁の長さの3乗に比例します。 ここで望遠鏡の場合、荷重とはトップケージの重量ですが、これを6本で支えるのが6本トラス、8本で支えるのが8本トラスとなります。 よって6本トラスの場合、一本当たり支える荷重は8本トラスに比べて4/3倍大きくなり、そのためたわみ量も4/3倍となります。

望遠鏡の剛性を考えると、たわみ量は小さい方がリジットな操作性で快適に観望できます。 よってトラス棒の本数は6本より8本の方が望ましいと考えられます。

なおトラス棒の断面2次モーメントはトラス棒の直径の4乗に比例します。 よって6本トラスで8本トラスと同じ程度かそれ以下のたわみ量とするにはトラス棒の直径は4/31/4 = 1.07倍以上にする必要があります。

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4.9.2. 6本ジャッキ <設計変更>


結論(設計変更):トラス棒は8本とし、トップケージの位置と傾きは調整しない。


(過去の結論:自作60cmドブソニアン計画ではトラス棒は6本とし、6本ジャッキの原理でトップケージの位置と傾きを調整する。)


トラス棒を6本とすることで6本ジャッキ(スチュワートプラットフォーム)の原理でトップケージの位置と傾きを任意に調整できると考えます。 スチュワートプラットフォームとは6つのアクチューエーターで一つの平面を支える機構で、x, y, z, θx, θy, θz の6つの自由度があり、各アクチュエーターの長さを調整することで支えている平面を任意の位置・角度にすることが出来ます。 下図のように上の平面は2本×3セットの合計6本のジャッキ(棒)で支える構造とした場合、一本でもジャッキの長さを変えると上の平面の位置・傾きは変わることになります。 この性質を逆に利用して6本のジャッキの長さを調整することで上の平面の位置と傾きを狙った値に持って行くことが出来ます。

六本ジャッキ

大型望遠鏡の場合、6本ジャッキは副鏡ユニットや主焦点ユニットの位置・角度調整機構としてほぼ例外なく採用されているようです。 自作60cmドブソニアン計画の場合もこれと同様に、6本ジャッキの原理でトップケージの位置と傾きを調整できるようにしたいと考えます。

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設計変更

原理的には6本ジャッキの原理で調整すればトップケージの位置と傾きは調整できるはずなのですが、実際にはうまくいきませんでした。 これはおそらく主鏡セルやトップケージの剛性が低く、無視できない量のたわみがあったため、位置や傾きはアクチュエーター(トラス棒)の長さだけでなく、かける力によっても変わったため、一意に調整ができなかったのだと思います。

そこでシンプルに市販のトラス金具を使って8本トラスとして、トップケージの位置と傾きは調整しない(工作精度で決まる位置・傾きを基準に、これに主鏡光軸を合わせる)ことにしました。 結果的にこれで十分でした。

またこれは6本ジャッキとは関係ないのですが、私の製作したトラス金具では6本トラスだと組み立て中にトラス棒が開いてしまい、組み立てが大変でした。 トラスの本数を減らして組み立て時間の短縮を狙いましたが、6本トラスとしたことでかえって組み立てに時間が掛かってしまい、本末転倒でした。

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4.9.3. トラス棒の重量


結論:トラス棒は必要な強度を確保しつつその重量はできるだけ軽くなるように設計する。


ドブソニアン望遠鏡の場合、鏡筒トラスの重心位置は一般に高度軸よりもトップケージ側に位置することになります。 そのためトラス棒の重量が大きいとそれだけバランスをとるためミラーボックス側を重くするか、トップケージ側を軽くする必要があります。 よってトラス棒としては必要な強度(たわまず・剛性が高い)があれば軽量であれば軽量であるほど優れていると考えられます。 自作60cmドブソニアン計画でもこの考えに従って、トラス棒の重量は出来るだけ軽くなるよう設計したいと考えます。 具体的には本数が少なく、長さが短く、直径が小さく、軽量な材質で出来たトラス棒を使用したいと考えます。 実際には容易に入手可能でかつ安価なもので製作することになると思います。 いずれにせよ自作60cmドブソニアン計画ではトラス棒は必要な強度を確保しつつ出来るだけ軽量になるように設計したいと考えます。

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追記(たわみ量について)

トラス棒の断面2次モーメントはトラス棒の直径の4乗に比例します。 一方でトラス棒の重量は直径の1乗に比例します。 よってトラス棒の直径を太くして、一方でトラス棒の本数を減らすというのが、剛性を確保しながら重量をできるだけ小さくするという設計となります。

しかし実際に製作した6本トラスは組み立て中にトラス棒が開いてしまい組み立てが大変で、また直径が小さかったため剛性も不足したものでした。 理屈の上では6本トラスが合理的ですが、私の工作レベルでは8本トラスの方が総合的に優れているという結果でした。

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4.9.4. トラス棒の長さ


結論:トラス棒の長さは最小限とする。


鏡筒トラスはトップケージとミラーボックスを接続する鏡筒の構造ですが、その長さは出来るだけ短いほうが良いと考えます。 理由は鏡筒のたわみを考えたとき、鏡筒が長ければ長いほどたわみ量は大きくなり、光軸ズレの原因となる可能性があるからです。 またトラス棒の長さを最小限とすれば収納時や運搬時にコンパクトになります。 これは結構重要なことで、自作40cmドブソニアンでもトラス棒が長くて邪魔で、車載時に困りました。

そこで自作60cmドブソニアン計画ではトラス棒の長さは出来るだけ短く最小限の長さとなるよう設計することにします。

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追記(たわみ量について)

ここではトラス棒のたわみ量について考えます。 単純片持ち梁のモデルを考えると、たわみ量は荷重の1乗、梁の長さの3乗に比例します。 ここで望遠鏡の場合、荷重とはトップケージの重量ですが、重量は体積に比例するので望遠鏡の口径の3乗に比例して大きくなります。 また梁の長さとはトラス棒の長さですが、これは望遠鏡の焦点距離に比例します。 よってドブソニアンのトラス棒のたわみ量は、口径の3乗、焦点距離の3乗に比例して大きくなることになります。

自作40cmドブソニアン と自作60cmドブソニアン計画で検討している数値で比較してみると、口径は 60cm/40cm = 1.5 倍、焦点距離は 79.2"/72" = 1.1 倍となり、自作40cmドブの トラス棒 と同じ直径19mmのトラス棒とした場合、60cmではたわみ量は約4.5倍となってしまいます。

望遠鏡の剛性を考えると、たわみ量は小さい方がリジットな操作性で快適に観望できます。 よってトラス棒の長さは短ければ短いほど良いと言えます。 またこの要請から、4.2.1. 主鏡のF値 についても自作60cmドブソニアン計画の場合、できるだけ小さなF値とし、焦点距離が短い=トラス棒を短くすることが求められると言えます。

なおトラス棒の断面2次モーメントはトラス棒の直径の4乗に比例します。 よって同じ程度かそれ以下のたわみ量とするにはトラス棒の直径は4.51/4 = 1.46倍の直径、つまり直径28mm以上とする必要があります。 自作60cmドブソニアン計画の場合、直径1.0" = 25.4mmのトラスパイプでは細すぎてダメで、自作40cmドブより剛性が不足することを意味します。 当初は直径1.0"のパイプでトラス棒を作りましたが、なるほど剛性が不足していたようです。

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4.9.5. トラス棒の直径 <設計変更>


結論(設計変更):トラス棒の直径は 1.5"とする。


(過去の結論:自作60cmドブソニアン計画ではトラス棒の直径は 1.0" とする。)


自作40cmドブソニアンの場合はトラス棒の直径は 19mm のアルミであったが特に問題はありまんでした。 そのため自作60cmドブソニアンの場合もトラス棒はあまり太くなくても望遠鏡の剛性には影響しないと考えられます。 直径 1.0" のアルミパイプであれば、市内(島内)のホームセンターで容易に入手が可能なようです。 そこで自作60cmドブソニアン計画ではトラス棒の直径は 1.0" とすることにしました。

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設計変更

当初トラス棒の直径は 1.0" としましたが、より高い剛性を目指して、トップケージを作り直すついでに直径 1.5" のアルミパイプに交換することにしました。 直径 1.5" のアルミパイプは Online Metals から購入しました(送料はけっこうしました。)

トラス棒の直径を大きくしても体感的に剛性はあまり変化ありませんでしたが、直径 1.0" の8本トラスで 5.1Hz だった固有振動数は直径 1.5" では 6Hz となり、確かに剛性は上がったようです。

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追記(たわみ量について)

トラス棒の断面2次モーメントはトラス棒の直径の4乗に比例します。 よって(同じ肉厚で)直径が 1.5倍 になればたわみ量は約 1/5 になります。 費用対効果ではないですが、重量増加対剛性で言えばトラス棒の直径を大きくすることは大きな意味があります。

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4.9.6. トラス金具 <設計変更>


結論(設計変更):Aurora Precision 製のトラス金具を使用する。


(過去の結論:自作60cmドブソニアン計画ではトラス金具も自作する。)


自作60cmドブソニアン計画のトラス棒は6本で、直接主鏡セルに接続する構造とするため、これに合わせてトラス金具を製作する必要があります。そこで具体的に、6本ジャッキの原理で各トラス棒の長さが調整できるように、また先端はロッドエンドベアリングを使用して自由な角度で固定できるように設計します。

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設計変更

6本トラスだと、剛性が低く、たわみが大きく、調整が困難で、組み立て時間が掛かり、メリットが無いことが分かりました。 そこで Aurora Precision で販売しているトラス金具 "Cage Truss Clamps", "Truss Brackets" を使うことにしました。 頑張れば自作も出来そうな構造ですが、トラス棒側の金具とトップケージ側の金具との回転を止める位置決めピンがよく出来ていて、これを使用するのが近道だと考えました。

またトラス棒は工作の都合から主鏡セルではなくミラーボックスに接続する構造としました。 これに合わせてミラーボックスも剛性のある構造としましたが、これらが結果的にうまく作用したからか、剛性が大幅に向上し、固有振動数や光軸ズレが大幅に改善しました。

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4.9.7. セルリエトラス


結論: 自作60cmドブソニアン計画ではセルリエトラスは採用しない。


セルリエトラスとは、望遠鏡の構造を副鏡支持機構、中央枠体、主鏡支持機構の3部分から構成し、副鏡支持機構と中央枠体を接続するトラス、中央枠体と主鏡支持機構を接続するトラスの剛性を調整して、望遠鏡を傾けても両方が同じたわみ量となって光軸がずれないように工夫されたトラスのことを指します。 ここで自作60cmドブソニアン計画の場合もできれば望遠鏡を傾けても光軸がずれないようにしたいと考えますが、セルリエトラスの構造となっているのは研究用の大型望遠鏡がほとんどで、Obsession Telescope の UC シリーズ、Hubble Optics のような「ウルトラライトタイプ」のドブソニアンでは直接トップケージとミラーボックスがトラス棒で接続され、セルリエトラスの構造になっていません。

自作60cmドブソニアン計画はできるだけ構造をシンプルにして小型・軽量になることを目指しています(そうしないと車に載せられない!)。 そこでトラスについては、セルリエトラスの構造はあえて採用しないことにします。

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追記

当初の6本トラスの時には剛性が低く、固有振動数が小さく、光軸ズレも大きかったのでセルリエトラスに作り替えようとも考えましたが、トラス棒を6本から8本に変え、Aurora Precision 製のトラス金具を使用し、またトラス棒の直径も1.0 inchから1.5 inchに大きくしたところ、剛性、固有振動数、光軸ズレは大幅に改善し、特に問題は感じなくなりました。 よってセルリエトラスに作り替えることはしませんでしたが、当初の期待・想定通り、セルリエトラスを採用しなくても問題なかったようです。

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2022年4月追記

望遠鏡を水平に向けると主鏡セルがたわみ、主鏡が約 0.6 mm 移動する ことが分かりました。 よって実質的にセルリエトラスと同じような働き(トラス棒側がたわんでトップケージが少しズレる、かつ主鏡セルがたわんで主鏡も少しズレる、よってトップケージと主鏡の相対的な位置関係はあまりズレない)をしているようです。 結果的にうまくいっているようです。

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4.9.8. シュラウド


結論: 自作60cmドブソニアン計画ではシュラウド(トラスカバー)は使用しない。


2.5. トラス棒 に書いたように、自作40cmドブソニアンではトラス部全体を覆う遮光布(シュラウド・トラスカバー)を用意して迷光対策を考えました。 しかし市街地での観望会以外では必要性を感じることはなく、逆にシュラウドを取り付けることで強風で望遠鏡が勝手に動いてしまい危険と感じました。

そこで自作60cmドブソニアン計画では鏡筒トラス部分を覆うシュラウド(トラスカバー)は使用せず、迷光対策はミラーボックスやトップケージといった他の構成要素で行う設計とすることにしたいと思います。

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追記

自作60cmドブソニアンではシュラウド(トラスカバー)は使わない前提でいましたが、約1年間使ってみて、特にエリダヌス座付近の銀河等、南の低空の天体を見るときにコントラストがイマイチ悪いように感じることがありました。 フィルターを使ったりアイピースを換えたり色々試しましたが、思ったようなコントラストは得られませんでした。 そこで当初設計にはありませんでしたが、シュラウドを製作し、鏡筒トラスを覆ってみました。

そして実際にシュラウドを使用して鏡筒トラスを覆ってみましたが、コントラストはほとんど改善せず、その効果はほとんど感じませんでした。 逆に取り付けが面倒で、さらに強風にあおられて望遠鏡が小刻みに振動してしまうこともわかり、メリットよりもデメリットが多いと感じました。 そのため当初設計通り、シュラウドは使用せず運用することにしました。

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追記の追記

とはいえやはり観望会など街灯が近くにあるような場所での星見にはシュラウドは必要と感じ、2019年に再製作することにしました。

シュラウドは暗い観望地では不要でしたが、明るい観望地ではあった方が良いようです。 確かにシュラウドの使用によって市街地でも迷光が防げて視野内のコントラストをそこそこ高く保つことができ、気持ちよく観望できるようです。

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