Starlight Integrated Paracorr System (以下 SIPS と略記) とは Starlight Instruments (以下 SI社 と略記)の接眼部 Feather Touch Focuser (1.5" draw tube travel) に組み込むための「専用」のパラコア2のレンズユニットと、それを取り付けるためのアダプターのことです。 SI社のウェブサイトによると補正レンズはパラコア2と全く同じものが使われているそうです
ここでなぜ私が SIPS を導入したのか、まず記したい思います。
パラコア2には「可変バレル」と呼ばれる、簡単に最適なバックフォーカスに調整出来る機構が備え付けられていますが、この機構があまり良くなく、ガタがあって、アイピースの光軸を正確に保持することが出来ないと私は考えています。 私の行った測定では、可変バレルの内径は50.96mmと推定され、隙間が多く、望遠鏡の光軸とアイピースの光軸がズレてしまう(オフセット)可能性があります(ちなみに典型的なスリーブ内径は50.82mm程度)。 またアイピースの傾き誤差も検証しましたが、可変バレルはその構造から伸縮させた時に平行が担保できず、最大で約0.09度傾いてアイピースが取り付けられる可能性があります(ちなみにみにアイピース固定ネジを締めた時にアイピースは典型的に0.005度程度傾斜する)。 そのためパラコア2の「可変バレル」を使う限り、アイピースはオフセットしたり傾いたりして取り付けられる可能性があり、望遠鏡の光軸をどんなに正確に合わせても「可変バレル」で光軸がズレてしまい、天体の光は正しくアイピースに入射しません。
そこで私はこの可変バレル問題を解決するため SIPS を導入しました。 SISP はレンズユニットと、レンズユニットと Feather Touch Focuser を接続する接続筒から構成されます。 レンズユニットはパラコア2のように接眼部の2インチスリーブに差し込むのではなく、望遠鏡の鏡筒側からねじ込んで取り付けることになります。 レンズユニットの位置は初回組み立て時に最適な位置になるよう調整する必要がありますが、調整後はダブルナット式に固定し、以後調整する必要はありません。 「可変バレル」に相当する部分は Feather Touch Focuser の伸縮で行います。 SIPS の場合、バックフォーカスの調整に「可変バレル」ではなく Feather Touch Focuser を使用することになります。 私の行った測定では Feather Touch Focuser のスリーブ内径は50.82mm程度で、伸縮に伴う傾斜も皆無で、ガタもなく、可変バレルとは雲泥の差です。 そのため SIPS ではバックフォーカスの調整によってアイピースのオフセットや傾きは殆ど発生しないと期待されます。 よって SIPS を使うことで、正確に合わせた望遠鏡の光軸を正しくアイピースに入射させることができる、と考えました。
実際に使用してみた感じでは、パラコアを使用していることを忘れるぐらい自然な使用感です。 「可変バレル」で生じていたアイピースのオフセットや傾きは SIPS の使用によって確かに解消されたように思います。 これまで感じていた「望遠鏡の光軸は完璧なのに、なんか星像がおかしい」といった曖昧な感じがなくなりました。 接眼部としては SIPS はかなり高価な製品ですが、私は十分な投資効果があったと思っています。
なお、望遠鏡の光軸調整を行う時には必ず SIPS のレンズユニットを外す必要があります。 レンズユニットを外すと通常のニュートン反射と同じ要領で光軸を合わせることが出来ます。
適合F値 | F3以上 |
補正効果 | f=1200mm、D=342mm、F3.5で回折限界 となる半径を20mm(16mm)に拡大 |
f=1200mm、D=400mm、F3で回折限界 となる半径を14mm(11mm)に拡大 | |
F3のコマ収差量をF12相当に補正 | |
拡大率 | 1.15倍 |
フランジバック | 57mm +2mm/-4mm |
スリーブ長 | 75mm |
入射レンズ直径 | 44.0mm |
レンズユニット単体重量 | 212g |
SIPS全体重量 | 934g |
生産国 | 台湾 |
註:括弧内は波長507nmで計算した値。
ニュートン反射望遠鏡を用いた眼視でも、これからは補正レンズの使用を前提として、補正レンズまでを望遠鏡と見なして考えるほうが良いのではないか?と考えます。 私はこれを "Corrected Newtonian" と呼びたいと思っています。
ここで補正レンズ系も含めて望遠鏡と見なす考え方ですが、例えば屈折望遠鏡は Tele Vue NP-101(ペッツバール光学系)では光学系が前群と後群に分かれていて全体として収差を補正する設計がされています。 また タカハシ TOA-130 では聞くところによると 67フラットナー(補正レンズ)の使用で最高性能が得られるよう最適化がなされている用です。 同様に、ニュートン反射の場合でも積極的に補正レンズの使用を前提とした光学系を考えてみても面白いと思います。
ただしこのような前群と後群を組み合わせる光学系では一般に前群・後群・そして後方に置かれるカメラやアイピース等の光軸は高精度に一致させなければ高い光学性能は得られません 屈折式の望遠鏡の場合は後群や補正レンズは一般に筐体にねじ込み式で光軸がズレないよう慎重に取り付けることが出来るようで、またカメラも最近はスケアリング (squaring) 調整が出来る構造となっていて、正確に光軸が合わせられるようになっています。
しかし現在一般に市販されているニュートン反射の場合、2インチ接眼部にパラコア2を取り付け、パラコア2の可変バレルにアイピースを取り付けることになりますが、この方法では光軸を正確に一致させることが難しく、高い光学性能が引き出せないと考えられます。
放物面主鏡とパワーの無い平面副鏡で構成されたニュートン反射望遠鏡は原理的に球面と色収差は生じませんが、その他の収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲はF値にかかわらず生じています。 そのためより良い星像を求めるのであれば、F値にかかわらず積極的に補正レンズを入れて収差を補正するべきだと考えます。 ただし前述のように補正レンズは高性能かつ正しく保持される必要があります。
そのため補正レンズの使用を前提としたニュートン反射望遠鏡 "Corrected Newtonian" を実現するためには、これまでよりも高い精度で補正レンズ、アイピースを保持できる機構を望遠鏡に備えなければならないと考えます。 その解として、私は SIPS の使用を考えたのでした。
初代のパラコアからは通算で第5世代だと思われる(第1世代:可変バレル無し、第2世代:可変バレル有り、Tマウントで取り外し可、第3世代:可変バレル有り、取り外し不可、第4世代:塗装が光沢から梨地に、可変バレルがネジ3本止めに変更)。 Visual Paracorr(パラコア眼視専用、第3世代・第4世代)との性能差は40cmドブでも十分分かる。 パラコア2で見える微光星がパラコア眼視専用では見えない。 視野全面がシャープ。 高倍率でも問題無く使用出来る。
望遠鏡側のレンズ(入射レンズ)直径は44mmと大きく、ケラれも少ないと思われる。 可変バレルは移動範囲が広く、ネジ3本止めとなって移動に伴うアイピースの傾きも Visual Paracorr と比べあまり気にならなくなった。 (しかしオフセットや傾きがどうしても生じてしまう構造のため Starlight Integrated Paracorr System を使用するようになった。) バレル位置も側面に明記され、細かいことだが着実に使いやすくなっている。 公称はF3まで対応で、F3の望遠鏡 + Paracorr Type2 + Ethos 21mm で瞳径6.1mmとなり最大実視野が実現する。 2010年頃から一気にF値の明るいニュートンが流行始めたのはEthosとパラコア2によるものだろう。 寡聞にしてパラコア2と同等かより高性能なコマ収差補正レンズを私は知らない。 惑星を見る場合でもパラコア2を外す必要は無い。 むしろ視野周辺までシャープに結像するので、追尾できないドブソニアンでは惑星観望時は積極的に使った方が良いと思う。
ところでNAV-17HWは2インチスリーブ端から合焦位置までの長さが58mmもあるため取り付けには注意が必要だ。 パラコア2のフランジバックは 57mm +2/-4mm なのでギリギリ許容範囲に収まるが、実際は可変バレル下部に直径46mm、厚さ1.5mmの「絞り」があるため、完全に奥までアイピースを入れることが出来ない。私はパラコア2の絞りをカニメレンチで外して完全に奥まで挿入できるように改造した。 実際の運用ではアイピースは可変バレルを A [-10.4mm]のポジションにして突き当たりまで入れて固定することになる。 (ちなみに「絞り」を外さない場合場合の視野絞位置は59.8mm、外した場合は58.3mmとなる。)
テレビュージャパンのウェブページ や TeleVue.comのSpot Size Graphs ではF値だけを与えてパラコア2の補正効果を比較しているが、回折限界(レイリー限界)は望遠鏡の口径Dと波長λに依存すため、若干不親切に思う。 計算の結果これらのウェブサイトでは暗黙に波長λ=656 [nm]、焦点距離f=1200 [mm] で評価しているようだ。 波長を656 [nm](C線)としているのはレンズ設計の慣例らしいが、暗所視における視感度のピークは 507 [nm] なので眼視性能を謳うのであれば 507 [nm] で評価すべきだと思う。 このウェブページでは括弧内に 507 [nm] での性能を併記した。
適合F値 | F3以上 |
補正効果 | f=1200mm、D=342mm、F3.5で回折限界 となる半径を20mm(16mm)に拡大 |
f=1200mm、D=400mm、F3で回折限界 となる半径を14mm(11mm)に拡大 | |
F3のコマ収差量をF12相当に補正 | |
重量 | 386g |
拡大率 | 1.15倍 |
フランジバック | 57mm +2mm/-4mm |
ピント位置 | -13.2mm |
スリーブ長 | 75mm |
入射レンズ直径 | 44.0mm |
付属1.25''アダプタ重量 | 96g |
付属1.25''アダプタ厚さ | 1.6mm |
生産国 | 台湾 |
註:括弧内は波長507nmで計算した値。
ニュートン式望遠鏡の欠点であるコマ収差を補正するためのレンズ。 過去にR200SSを改造したドブを使っていた頃はビクセンのコマコレクター(初期型)を用いていたが、写真撮影を念頭にした製品の為なのか眼視ではあまり補正の効果は感じなかった。 そこでパラコアを購入した。このパラコアは第3世代(第1世代:可変バレル無し、第2世代:可変バレル有り、Tマウントで取り外し可、第3世代:可変バレル有り、取り外し不可)のもので、 後玉が大きくケラれが最小と言われている。 しかし実際は望遠鏡側のレンズ(入射レンズ)直径が38.3mmしかないためやはりケラれは生じる。ただ、私には知覚できなかった。
R200SSを改造したドブに取り付けたところ、コマ収差を良好に補正して眼視に十分な性能を発揮した。 自作40cmドブソニアンに使用する場合は、F値は 4.5 なのでパラコアの必要性について意見が分かれるところだが、パラコア有りで周辺像の改善は実感できた。 そのため私は無条件に接眼部に取り付けて観望に使用してきた。 ただし惑星を高倍率で見るときはシャープさに欠ける為、外して見ることが多かった。 パラコア2の購入で全く使わなくなり、最終的に売却した。
適合F値 | 3.5~5.0 |
補正効果 | F4.5で回折限界となる面積を36倍に拡大 |
F4のコマ収差量をF8相当に補正 | |
重量 | 395g |
拡大率 | 1.15倍 |
フランジバック | na |
ピント位置 | -11.4mm |
スリーブ長 | 61mm |
入射レンズ直径 | 38.3mm |
付属1.25''アダプタ重量 | 117g |
付属1.25''アダプタ厚さ | 9.5mm |
生産国 | アメリカ |