美星天文台 は岡山県井原市美星町にある口径101cmの望遠鏡を備える公開天文台で、操作資格を取得して公募に応募して採択されることで、101cm望遠鏡を個人でも占有して使用することができます(公募観測)。 そこで101cm望遠鏡を使って天体スケッチすることを考えました。

美星天文台
観測明けの快晴の美星天文台(2023年3月19日)
  1. きっかけ
  2. 予想される成果
  3. 空の明るさ
  4. シーイング
  5. 操作資格の取得
  6. 公募観測の申請
  7. 観測準備
  8. 実際の観測
  9. 天体スケッチ結果:M51 子持ち銀河

1. きっかけ

2022年4月~5月にかけて M51 子持ち銀河 (NGC5194) を口径を変えてどう見えるか色々と試していました。 口径15cm 倍率120倍 瞳径1.3mm では渦があるようなないような、はっきりとはわからないけれどコアのまわりにリング状の淡いガスがあることがわかり、口径28cm 倍率180倍 瞳径1.6mm では確かに渦を巻いているのはわかるがはっきりとはしないような見え方でした。 さらに 口径40cm 倍率250倍 瞳径1.6mm では腕がはっきりと見えるものの、構造はイマイチ不明瞭だと感じる見え方で、さすがに 口径60cm 倍率450倍 瞳径1.3mm で見るとこちらは渦の濃淡や形状といった構造もよく分かるといった見え方でした。 ただし天体写真と比較するとまだまだ見えていない構造もあるように思いました。

M51の比較
口径別のM51 子持ち銀河の見え方。左上から右下に向かって、15cm 120倍、28cm 180倍、40cm 250倍、60cm 450倍で天体スケッチ。 いずれもハワイ島マウナロア山でスケッチ。

ここで「M51をさらにもっと大口径で見るとどう見えるのだろうか?」といったことを考えました。 大口径なら同じ瞳径のまま、つまり視野内の明るさは同じまま、より高倍率が得られることからより細かい構造まで見えてくると考えました。

美星天文台 は岡山県井原市美星町にある公開天文台で口径101cmの望遠鏡を備えています。 美星天文台には 公募観測 という枠組みがあり、操作資格 を取得して公募に応募して採択されると(研究者でなくても)個人でも口径101cmの望遠鏡を占有して使用することができます。 研究者や特別なコネがなくても操作資格を取得して公募で採択されれば一晩占有して自分のテーマで使用できるようです。 そこで美星天文台の操作資格を取得して公募観測に応募することで、101cm望遠鏡で天体スケッチすることを考えました。

ページの先頭に 戻る

2. 予想される成果

美星天文台の101cm望遠鏡は口径 1,010 mm、焦点距離 12,120 mm のカセグレン焦点で 眼視観測 ができるようです。 光路図 を見ると接眼レンズの手前に光路切り替えミラーがあるようで、得られる像は鏡像になります。 そこでピントが合うか若干心配ですが、2インチ天頂ミラーを使って倒立像に戻して観察することを考えています。 以下の天頂ミラーを持ち込んで使用する予定です。

またアイピースは2インチ径のものを持ち込んで使用することができるようなので以下のアイピースを持ち込んで使用する計画です。

どちらも見かけ視野100度の極超広角アイピースで視野一杯にシャープな星像を結ぶと期待されます。 倍率は580倍または710倍と少し高倍率すぎるような気もしますが、シーイングさえ許せば 適度な視野背景 から最高の眼の感度・分解能で最高の観望体験が得られるはずです。 メシエ天体といった大きく明るい天体の詳細な構造や有名な銀河団の個々の銀河の形状など、これまで 自作60cmドブソニアン では見えなかった、または曖昧だったものが美星天文台101cm望遠鏡ではっきりと見えるようになることが期待されます。

公募観測の1回の観測は採択された週末のうちの1夜の23:00~28:00の5時間です。 この時間があれば通常の天体スケッチなら4枚程度、広視野スケッチ でも時間内に1枚描くことができる見込みです。

ページの先頭に 戻る

3. 空の明るさ

美星天文台のある岡山県井原市美星町は1989年に「美しい星空を守る美星町光害防止条例」(光害防止条例)が制定・施行された地域・自治体で、2021年には国際ダークスカイ協会から「ダークスカイ・コミュニティ」にも認定された天体観測の好適地です。 しかし近隣に岡山、倉敷、福山といった都市があり、夜空は正直なところ、若干明るいと思われます。

伊藤・前野 (2021) によると空の典型的な明るさはVバンドで 20.5 mag/arcsec2 、本当に真っ暗なサイトと比べると 1.0 mag/arcsec2 程度明るい計算になります。 淡く広がった天体の限界等級は 望遠鏡の口径によらず空の明るさによって決まる ため、本当に淡くて見えるか見えないかギリギリの大きく広がったような構造は美星天文台では見えないと考えられます。

一方で 天体の大きさがφ4°の時に最も暗い天体が見える というヒトの目の性質を考慮すると、細かい構造を見るには拡大して見ることのできる大口径の方が有利です。 例えば瞳径を同じ1.5mmとすれば口径60cmの場合は450倍、口径101cmの場合は670倍となり、1.7倍に拡大できるので1.7倍小さい構造まで見ることができる計算になります。 もし淡い構造に細かい濃淡があるような場合、例えば銀河の腕の中の星々の塊や暗黒帯といた構造は、たとえ光害地であっても大口径のほうが分解してよく見えるはずです。

ただし近隣の岡山、倉敷、福山といった都市の光害がやはり気になります。 そこでフィルターの使用を考えます。 フィルターを使うことによって光害の波長がカットされS/Nが向上することが期待される一方、フィルターの使用によって眼に届く総光量が減ることからS/Nの低下も考えられます。 メリットがデメリットに勝るかはフィルターの特性や光害の種類・強度によると考えられます。 そこで以下のフィルターを持ち込み、状況に応じて適宜使い分けることにします。

さらに空の明るさの客観的なデータを残すため、空の明るさは SQM-L を用いて観測の前・中・後に実際に測定することにしました。

ページの先頭に 戻る

4. シーイング

シーイングについても同じ 伊藤・前野 (2021) に記述があり、美星天文台でのシーイングの平均値は 4秒角 程度とのことです。 正直なところ、これはかなり悪い値です。 これだけシーイングが悪いと高倍率では本来点光源であるはずの恒星が肥大して面積があるように見え、見ても面白くないです。

恒星が肥大して面積があるように見えるかどうかは望遠鏡の倍率とシーイングによります。 実験 から暗い対象の場合には見かけの大きさがφ0.5度より小さければ概ね点光源に見えます。 ここで望遠鏡はシーイングをその倍率だけ拡大して見ることになるため、シーイングと倍率の「積」が見かけの大きさφ0.5度よりも小さいという条件で暗い恒星は点光源に見えるはずです。 式に書くと以下となります。

(シーイング) × (望遠鏡の倍率) < 0.5度

よってシーイング4秒角の時でも450倍以下、シーイング3秒角なら600倍以下で暗い恒星は点光源に見える計算になります。 持ち込み予定のアイピース Ethos 21mm では倍率580倍のため美星天文台の平均4秒角のシーイングでは正直厳しいところですが、3秒角程度のシーイングが得られれば問題は無さそうです。

なお面積のある広がった天体はもともと φ1度程度 しかヒトの目には分解能が無いため、基本的にシーイングによる影響はないはずです。

美星天文台での観測の際には観測の前・中・後に簡易的なシーイングの評価も行うことを考えました。 離角の分かっている明るい二重星をいくつか見て、どの程度の離角の二重星なら分離して見えるか調べることでシーイングを推定、記録する計画です。 次の図は M51 子持ち銀河 (NGC5194) 付近の明るい二重星がシーイングによってどう見えるか計算したものです。 この図と実際の見え方を比較することで観測時のシーイングを評価する予定です。

シーイング評価用2重星
シーイング評価に用いる二重星のシミュレーション。視野は30秒角。

ページの先頭に 戻る

5. 操作資格の取得

2022年5月頃に美星天文台101cm望遠鏡で天体スケッチするというアイデアを思いつきました。 このアイデアを実現するためにはまずは「操作資格」の取得が必要です。 そこで実際の私の経験を以下に書き出してみます。

5.1. 準備

101cm望遠鏡操作資格の講習会・試験は例年、年に1回開催されているようです。 参考に 2021年度の講習会 について調べてみると、7月下旬に講習会の募集開始、9月中旬に締め切り、10月初旬に講義、10月下旬に試験といったスケジュールでした。 これらは全て週末の開催のようでした。

また以前がどうか分からないのですが、コロナ禍ということもあり、近年講義はZoomでリモートで受講できるようでした。 私は米国在住のため、これは助かりました。

なお 2021年度の募集要項 によると、講習会の申込みではこれまで使用してきた望遠鏡や天文歴などを詳しく記入する必要があるとのことでした。 早めに作文して用意しておくことにしました。

5.2. 申込み

予想通り、7月下旬に 2022年度の講習会 の募集が開始されました。 講義は10月初旬、試験は10月中下旬に行われるということで、仕事の都合を確認して、事前に用意していた申請書をメールで送付し、申込みしました。

5.3. 講義

2022年度の場合、講義は Zoom で実施ということで、自宅のあるハワイ島からリモートで参加しました。 講義内容は主に一般的な天体観測の知識についてでしたが、時角の計算など、知らないと難しい内容もあり、勉強になりました。

5.4. 試験

講義の2週間後の週末に筆記試験でした。 2022年度の場合は筆記試験も Zoom で実施でした。 そして筆記試験の翌週に実地操作試験があり、こちらは一時帰国して現地にて参加しました。 講習会の受講料(1300円)はこの時に支払いました。 試験の結果は「合格」、無事に操作資格を取得することができました。

美星天文台
実施操作試験を現地で受講(2022年10月22日)

ページの先頭に 戻る

6. 公募観測の申請

101cm望遠鏡の公募観測は年3回公募があって、それぞれ4~8月が第一期、9~12月が第二期、1~3月が第三期の公募対象期間となるようです。 4~8月の第一期は2月中旬、9~12月の第二期は7月中旬、1~3月の第三期は11月中旬に募集が開始となり、それぞれ3月中旬、8月中旬、12月中旬に観測プログラムが決定されるとのことです。

観測期間公募開始採択通知
第一期公募観測4~8月2月中旬3月中旬
第二期9~12月7月中旬8月中旬
第三期1~3月11月中旬12月中旬

そこで早速2022年度第三期の公募観測に申請することにしました。 予想通り11月中旬に 公募が開始 され、申込みました。 そして無事に 申請は採択 され、2023年3月17~19日の週末のうちの1夜の23:00~28:00の5時間、「101cm望遠鏡を用いた眼視スケッチ」というテーマで101cm望遠鏡を占有して観測することが認められました。

申請書の作成では美星天文台の以下の情報が役立ちました。

ページの先頭に 戻る

7. 観測準備

実際の観測の流れと、スケッチの成果についてここにまとめます。

なお美星天文台の公募観測では1週末(金・土・日の3夜)が候補として割り当てられ、このうちの1夜のみ観測できるというルールです。 2022年度第三期の場合は2023年3月17~19日に割り当てていただきましたが、このうちの1夜を直前に天気予報を元に決定することになります。

7.1. タイムライン

公募観測が採択された後は以下の流れで観測を行うことになります。

(必要に応じて)(ターゲットリストを準備、連絡)
2週間前まで仮眠室を利用する場合は利用人数を連絡
観測当日の夕方まで観測の実施の有無を連絡
観測当日の23時まで待機室で待機

参考:美星天文台の金・土・日の営業時間は13:45-16:00、18:00-22:00。

ページの先頭に 戻る

2.2. 天気予報など

以下のサイトの情報を元に、観測当日の夕方まで天気の判断を行いました。

ページの先頭に 戻る

8. 実際の観測

2023年3月17~19日の週末に採択された公募観測「101cm望遠鏡を用いた眼視スケッチ」について、その体験をまとめます。

8.1. 天気の判断

3/18(Fri)は1週間前ぐらいから雨の予報で、当日も雨でした。 この時点では3/18(Sat)、3/19(Sun)どちらも概ね晴れの予報でした。 14:00頃に美星天文台に電話し、この日は観測を行わないことを伝えました。

天気予報によると3/18(Sat)は低気圧が通過した後、雲が残りそうですが概ね晴れの予報です。 3/19(Sun)は高気圧が張りだして日中は晴れのようですが、夜になると高気圧と高気圧の谷で少し雲が出そうに思いました。 黄砂の予報は両日ともなし、PM2.5は土曜日の方が濃度が低いようです。

色々と天気予報を見ましたが、イマイチ決断できません。 なんとなく雨上がりの方がよさそうな気がしたので、最後はエイヤで3/18(Sat)に行うと判断し、15:00頃に美星天文台に電話、この日に実施することにしました。

ページの先頭に 戻る

8.2. 仮眠と出発

実施を決めたので観測に備えて16:00~18:00に仮眠することにしました。 時差ボケもあってあまり寝られていなかったこともあり、ぐっすり眠れました。 その後夕食をとり、20:00少し前に実家を出発しました。 途中コンビニによって夜食を調達し、21:00頃に美星天文台に到着しました。 天文台の2階の観測待機室で待機しました。

22:00に天文台の一般公開が終わり、車を移動させ、機材を下ろしました。 天文台の方によるとこの日のシーイングは残念ながらイマイチだそうです。 一方で天気のほうは快晴で大丈夫そうです。

ページの先頭に 戻る

8.3. 機材セッティング

101cm望遠鏡のカセグレン焦点に持参した2インチ天頂ミラーとアイピースを取り付けました。 心配していたピントは問題なく合焦しました。 星像はシーイングなりの見え方で、肥大して面積があるように見えるもののギリギリ大丈夫と思いました。

美星天文台
接眼部に取り付けた2インチ天頂ミラーとアイピース

アイピースは Ethos 21mm と NAV-17HW を持参しました。 視野背景の暗さや星像の鋭さは NAV-17HW のほうが良いと感じましたが、今回の対象(M51)を見るには少し拡大しすぎて面白くないようで Ethos 21mm を使うことにしました。

ただし Ethos 21mm だと少し視野背景が明るすぎてコントラストが低いように感じため IDAS LPS-D3 フィルターを入れて天体スケッチすることにしました。

(実際には翌朝行いましたが)実際の倍率を調べるため射出瞳径の測定も行いました。 持参したスケールつきルーペをアイピースに取り付け、持参したコンデジで射出瞳径を撮影しました。 測定結果から瞳径は約1.65mm、一方で望遠鏡の入射瞳径は1010mm(天文台の方に質問したところ主鏡の物理直径は1050mmで光学直径が1010mmとのこと)のため、天頂ミラーを入れてEthos 21mmを使った場合の倍率は約610倍と求まりました。

美星天文台
射出瞳径の測定結果(1目盛り0.1mm)

その他、高さ調節のできるイスを天文台に持参しました。 いつも天体スケッチは立ったまま描いているのですが、やはり座ってスケッチするのは快適でした。 持参して大正解でした。

ページの先頭に 戻る

8.4. 観測環境

ドーム内は照明を完全に消すことで暗くなりますが、パソコンや操作盤のLEDなどがあり、一応は遮光対策されていますが漏れる光もあって気になりました。 そこで持参した黒布で覆ってこれらの光を遮光しました。 その結果ドーム内をほぼ完全に真っ暗にすることができました。 ここで気が付いたのですが、ドーム内の方が野外よりも暗く、より暗順応できる環境でスケッチできるのではと思いました。 またドーム内は夜露の心配もなく非常に快適でした。

美星天文台
美星天文台101cm望遠鏡での天体スケッチ。赤ライトは撮影のため使用。

空の明るさは SQM で測定しました。 適当なタイミングで天頂方向をそれぞれ3回測定し平均しました。 数値としてはそこそこ良い値が得られましたが、明け方に昇ってきた天の川はかなり淡く感じ、また南東の倉敷方向の空も明るく、正直、やはり美星の空は明るいなと思いました。

時刻SQM値
22:2020.8 mag/□"
25:1521.1
26:5521.1

シーイングは二重星を観察して評価しました。 22:30 にはε Booは分離しませんでしたが 2 Comは分離して見えました。 2 Comの離角は3.7秒角、観察時の高度角60度を補正してシーイングは3.4秒角より小さいと推定しました。 同様に 25:45 の測定では 25 CVnは分離しませんでしたがε Booは分離して見えました。 ε Booの離角は2.9秒角、観察時の高度角70度を補正してシーイングは2.8秒角より小さいと推定しました。

時刻シーイング
22:30<3.4 arcsec
25:45<2.8

倍率610倍で星像を見た印象からも、前半は恒星が肥大して見え、暗い恒星もかすかに見えるか見えないかギリギリといった印象でしたが、後半になるに従って星の肥大はほとんど感じなくなり、また淡い恒星も見えてきました。 これはシーイング3秒角程度でのまさに予想通りの見え方でした。

ページの先頭に 戻る

9. 美星天文台で天体スケッチ:M51 子持ち銀河

M51 子持ち銀河 (NGC5194)のスケッチ

バックグラウンドの空が明るいためか、ぱっと見ただけでは淡く分かりにくいが、ドーム内を暗くして、さらに時間をかけてじっくり見ていくことで細かい構造が見えてきた。 銀河中心のコア部は丸くそして明るい。 このコアのすぐ外側南東付近からクランピーな塊(星団や明るいガス)がぐるっと連続して並び、一周目の渦(東側の腕)を作る。 これがとても大きく、かつ明るく見える。 この構造が「腕」ではなくまるで「リング」のようにも見える。 なるほど、ジョン・ハーシェルがリングだと考えたのも完全に納得した。

この一周目のクランピーな連続した構造は、北東付近で不明瞭になり、いくつもの渦・流れが複雑に交わって分かれて、そして二周目の渦(西側の腕)となる。 この二周目の渦は一周目と比べると淡いがこちらも南西から南東にかけて塊がいくつも連なって見えた。

子持ち銀河の子の方の銀河 NGC5195 のコアは特に集光が強く感じた。 アイピースを最初にぱっと覗いた時は明るい恒星かと思ったほど。 コア全体としては南北に少し楕円で、西側に淡い領域が滑らかに広がる。 先ほどの二周目の腕とは細いガスの流れで繋がっているようで、淡い恒星と重なる付近で切れて見える。 またこの付近はもやっとして、一周目の腕とも繋がっているような、複雑な構造に見えた。

M51 子持ち銀河 (NGC5194)のスケッチ

ここで、明るい領域やガスの流れなど、アイピースを覗いて見えた構造の特徴を赤線で示した。 これまでの経験から、M51子持ち銀河は腕が滑らかなカーブを描くいうよりも、カクッ、カクッと直線的に伸びて曲がるを何回か繰り返すような印象を持っていた。 しかし今回はあまりそのような印象はなく、とにかくたくさんのガスの塊が連続して並び、結果として銀河の「渦」「腕」を形作っている、そのような印象に感じた。

M51 子持ち銀河 (NGC5194)のスケッチ

ここでさらに、明るい領域と明るい領域の間やガスの流れとそうでない領域の間にシアン色の線を引いて示した。 このシアン色の線の領域はスケッチ中には明確に意識したものではなかったが、データを整約中に天体写真と比較したところ、ちょうどこれらは銀河の暗黒帯に対応する位置に重なっていた。 つまりM51の渦巻きの中の暗黒帯も天体スケッチをとることで結果的に見ることができたのだと思う。

銀河の腕のクランピーで複雑な構造がとても印象的だったが、銀河全体にわたって大きく広がるもやっとした淡いガスの存在も印象的だった。 淡いガスが銀河全体に満ち満ちているように、視野背景とは明らかに明るさが違って見えた。


いつもは天体追尾のないドブソニアンでスケッチしているため視野から天体がどんどん逃げていくが、美星天文台101cm望遠鏡は赤道儀で自動追尾のため落ち着いて描くことができ、複雑な構造の割には短時間で描ききることができた。 一方で赤道儀のため天体は動かないが、本当に淡い構造は「動いていると見える」ようで、わざとハンドコントローラーを操作して視野を動かしてスケッチを行った。 こうすることで限界ギリギリの暗い構造まで見えてきた。 これは新鮮な発見だった。

視野一杯に見える銀河の構造を一つ一つ確かめてスケッチ用紙に描いていくのが本当に面白かった。 何度も何度も見てきたM51がここまで詳細に見えたのは、やはり美星天文台の101cmの口径と、それによって実現した高倍率によるものだと思う。 (もちろんぱっと見ただけでここまで見えると思ってはいけない。 ギリギリ限界まで暗順応させて、部分部分を長時間見続けた印象を重ねてつなぎ合わせて描いたものが天体スケッチ。) 美星天文台101cmでの天体スケッチは本当に素晴らしい経験だった。 今後も引き続き公募に応募して、他の天体も見てみたい。

天体のデータ
M51りょうけん座銀河8.1等10.8'x6.6'2300万光年
NGC5195りょうけん座銀河9.6等5.9'x4.6'2500万光年
スケッチデータ
スケッチ開始日時2023年3月18日23時15分
スケッチ終了日時2023年3月18日26時30分
観測場所岡山県井原市美星町 美星天文台 (海抜420m)
使用機材美星天文台101cm望遠鏡 + 眼視接眼部 + IDAS LPS-D3フィルター
+ 2インチ天頂ミラー + Ethos 21mm (610倍、0.16度)
スケッチ範囲は約0.24度×0.18度

ページの先頭に 戻る