美星天文台 は岡山県井原市美星町にある口径101cmの望遠鏡を備える公開天文台で、操作資格を取得して公募に応募して採択されることで、101cm望遠鏡を個人でも占有して使用することができます(公募観測)。 そこで101cm望遠鏡を使って天体スケッチすることを考えました。
2022年4月~5月にかけて M51 子持ち銀河 (NGC5194) を口径を変えてどう見えるか色々と試していました。 口径15cm 倍率120倍 瞳径1.3mm では渦があるようなないような、はっきりとはわからないけれどコアのまわりにリング状の淡いガスがあることがわかり、口径28cm 倍率180倍 瞳径1.6mm では確かに渦を巻いているのはわかるがはっきりとはしないような見え方でした。 さらに 口径40cm 倍率250倍 瞳径1.6mm では腕がはっきりと見えるものの、構造はイマイチ不明瞭だと感じる見え方で、さすがに 口径60cm 倍率450倍 瞳径1.3mm で見るとこちらは渦の濃淡や形状といった構造もよく分かるといった見え方でした。 ただし天体写真と比較するとまだまだ見えていない構造もあるように思いました。
ここで「M51をさらにもっと大口径で見るとどう見えるのだろうか?」といったことを考えました。 大口径なら同じ瞳径のまま(視野内の明るさは同じ)より高倍率が得られることから、より細かい構造が見えてくると考えられます。
将来的にはもっと大口径(口径76cm程度)のドブソニアンを自作したいと考えていますが、実現までには時間がかかりそうです。 また口径60cmから口径76cmでは集光力は約1.56倍でしかないため見え方の変化は小さいかもしれません。 ただし口径76cm以上の大口径となると、さすがに個人での所有は難しいと思います。 そこで公共天文台の大望遠鏡を利用することを考えました。
美星天文台 は岡山県井原市美星町にある公開天文台で口径101cmの望遠鏡を備えています。 美星天文台には 公募観測 という枠組みがあり、操作資格 を取得して公募に応募して採択されると(研究者でなくても)個人でも口径101cmの望遠鏡を占有して使用することができます。 研究者や特別なコネがなくても操作資格を取得して公募で採択されれば一晩占有して自分のテーマで使用できるようです。
そこで美星天文台の操作資格を取得して公募観測に応募することで、101cm望遠鏡で天体スケッチすることを考えました。
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美星天文台の101cm望遠鏡は口径 1010 mm、焦点距離 12,120 mmでカセグレン焦点で 眼視観測 ができるようです。 光路図を見ると接眼レンズの手前に光路切り替えミラーがあるようで、得られる像は鏡像になると思われます。 そこでピントが合うか若干心配ですが、2インチ天頂ミラーを使って倒立像に戻して観察できればと考えています。 以下の天頂ミラーを持ち込んで使用する予定です。
またアイピースは2インチ径のものを持ち込んで使用することができるそうなので、以下のアイピースを持ち込んで使用する予定です。
どちらも見かけ視野100度の極超広角アイピースで視野一杯にシャープな星像を結ぶと期待されます。 倍率は580倍または710倍と少し高倍率すぎるような気もしますが、シーイングさえ許せば 適度な視野背景 から最高の眼の感度・分解能で最高の観望体験が得られるはずです。 メシエ天体といった大きく明るい天体の詳細な構造や有名な銀河団の個々の銀河の形状など、これまで 自作60cmドブソニアン では見えなかった、または曖昧だったものが美星天文台101cm望遠鏡ではっきりと見えるようになると期待されます。
公募観測の1回の観測は採択された週末のうちの1夜の23:00~28:00の5時間です。 この時間があれば通常の天体スケッチなら4枚程度、広視野スケッチ でも時間内に1枚描くことができる見込みです。
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美星天文台のある岡山県井原市美星町は1989年に「美しい星空を守る美星町光害防止条例」(光害防止条例)が制定・施行された地域・自治体で、2021年には国際ダークスカイ協会から「ダークスカイ・コミュニティ」にも認定された天体観測の好適地です。 しかし近隣に岡山、倉敷、福山といった都市があり、夜空は正直なところ若干明るい場所に位置します。
伊藤・前野 (2021) によると空の典型的な明るさはVバンドで 20.5 mag/arcsec2 、本当に真っ暗なサイトと比べると 1.0 mag/arcsec2 程度明るい計算になります。 ここで淡く広がった天体の限界等級は 望遠鏡の口径によらず空の明るさによって決まる ため、本当に淡い見えるか見えないかギリギリの構造は美星天文台では見えないと考えられます。 淡く一様に大きく広がったハロのような成分は、無光害地の中小口径のほうがよく見えると考えられます。
ただしヒトの目は 天体の大きさがφ4°の時に最も暗い天体が見える という性質を考慮すると、淡くて細かい構造を見るには拡大して見ることのできる大口径の方が有利と言えます。 例えば瞳径を同じ1.5mmとすれば、口径60cmの場合は450倍、口径101cmの場合は670倍となり、1.7倍に拡大して見ることができ、1.7倍小さい構造まで見ることができる計算になります。 そのためもし淡い構造に細かい濃淡があるような場合、例えば銀河の腕の中の星々の塊や暗黒帯といた構造は、たとえ光害地であっても大口径のほうが分解してよく見えるはずです。
ただし近隣の岡山、倉敷、福山といった都市の光害がやはり気になります。 そこでフィルターの使用を考えます。 フィルターを使うことによって光害の波長がカットされS/Nが向上することが期待される一方、フィルターの使用によって眼に届く総光量が減ることからS/Nの低下も考えられます。 メリットがデメリットに勝るかはフィルターの特性や光害の種類・強度によると考えられます。 そこで以下のフィルターを持ち込み、状況に応じて使い分けることにします。
さらに空の明るさの客観的なデータを残すため、空の明るさは SQM-L を用いて観測の前・中・後に実際に測定する計画です。
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シーイングについても同じ 伊藤・前野 (2021) に記述があり、美星天文台での平均は 4秒角 程度と、正直なところこれはかなり悪い印象です。 これだけシーイングが悪いと高倍率(具体的には450倍以上)で本来点光源であるはずの恒星も肥大して面積があるように見えることになり、面白くないと思われます。 さらに暗い恒星は背景に溶け込んで見えなくなるはずです。 一方で面積のある広がった天体はもともと 4度程度 しかヒトの目には分解能が無いため、シーイングによる影響はないなずです。 ただしどれぐらい見て面白いかは、正直よくわかりません。
そこで美星天文台での観測の際には観測の前・中・後に簡易的なシーイングの評価も行うことにしました。 離角の分かっている明るい二重星をいくつか見て、どの程度の離角の二重星なら分離して見えるか調べることでシーイングを推定、記録する計画です。 次の図は M51 子持ち銀河 (NGC5194) 付近の明るい二重星について、シーイングによってどう見えるか計算したものです。 この図と実際の見え方を比較することで観測時のシーイングを評価する予定でいます。
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2022年5月頃に美星天文台101cm望遠鏡で天体スケッチするというアイデアを思いつきました。 このアイデアを実現するためにはまずは「操作資格」の取得が必要です。 そこで実際の私の経験を以下に書き出してみます。
101cm望遠鏡操作資格の講習会・試験は例年、年に1回開催されているようです。 参考に 2021年度の講習会 について調べてみると、7月下旬に講習会の募集開始、9月中旬に締め切り、10月初旬に講義、10月下旬に試験といったスケジュールでした。 これらは全て週末の開催のようでした。
また以前がどうか分からないのですが、コロナ禍ということもあり、近年講義はZoomでリモートで受講できるようでした。 私は米国在住のため、これは助かりました。
なお 2021年度の募集要項 によると、講習会の申込みではこれまで使用してきた望遠鏡や天文歴などを詳しく記入する必要があるとのことでした。 早めに作文して用意しておくことにしました。
予想通り、7月下旬に 2022年度の講習会 の募集が開始されました。 講義は10月初旬、試験は10月中下旬に行われるということで、仕事の都合を確認して、事前に用意していた申請書をメールで送付し、申込みしました。
2022年度の場合、講義は Zoom で実施ということで、自宅のあるハワイ島からリモートで参加しました。 講義内容は主に一般的な天体観測の知識についてでしたが、時角の計算など、知らないと難しい内容もあり、勉強になりました。
講義の2週間後の週末に筆記試験でした。 2022年度の場合は筆記試験も Zoom で実施でした。 そして筆記試験の翌週に実地操作試験があり、こちらは一時帰国して現地にて参加しました。 講習会の受講料(1300円)はこの時に支払いました。 試験の結果は「合格」、無事に操作資格を取得することができました。
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101cm望遠鏡の公募観測は年3回公募があって、それぞれ4~8月が第一期、9~12月が第二期、1~3月が第三期の公募対象期間となるようです。 4~8月の第一期は2月中旬、9~12月の第二期は7月中旬、1~3月の第三期は11月中旬に募集が開始となり、それぞれ3月中旬、8月中旬、12月中旬に観測プログラムが決定されるとのことです。
観測期間 | 公募開始 | 採択通知 | |
---|---|---|---|
第一期公募観測 | 4~8月 | 2月中旬 | 3月中旬 |
第二期 | 9~12月 | 7月中旬 | 8月中旬 |
第三期 | 1~3月 | 11月中旬 | 12月中旬 |
そこで早速2022年度第三期の公募観測に申請することにしました。 予想通り11月中旬に 公募が開始 され、申込みました。 そして無事に 申請は採択 され、2023年3月17~19日の週末のうちの1夜の23:00~28:00の5時間、「101cm望遠鏡を用いた眼視スケッチ」というテーマで101cm望遠鏡を占有して観測することが認められました。
申請書の作成では美星天文台の以下の情報が役立ちました。
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実際の観測の流れと、スケッチの成果についてここにまとめていく予定です。
なお美星天文台の公募観測では1週末(金・土・日の3夜)が候補として割り当てられ、このうちの1夜のみ観測できるというルールです。 2022年度第三期の場合は2023年3月17~19日に割り当てていただきましたが、このうちの1夜を直前に天気予報を元に決定することになります。
公募観測が採択された後は以下の流れで観測を行うことになるようです。
(必要に応じて) | (ターゲットリストを準備、連絡) |
2週間前まで | 仮眠室を利用する場合は利用人数を連絡 |
観測当日の夕方まで | 観測の実施の有無を連絡 |
観測当日の23時まで | 待機室で待機 |
参考:美星天文台の金・土・日の営業時間は13:45-16:00、18:00-22:00。
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以下のサイトなどの情報を元に、観測当日の夕方までに天気の判断をするつもりでいます。
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2023年3月17~19日の週末に採択された公募観測「101cm望遠鏡を用いた眼視スケッチ」について、その体験をまとめていきます。
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