ボリソフ彗星 (2I/Borisov, C/2019 Q4)のスケッチ
ボリソフ彗星 (2I/Borisov, C/2019 Q4)のスケッチ

非常に淡い。 そこに存在すると思って見てみないとバックグラウンドに溶け込んで全く分からない。 が、その淡い「何か」は時間の経過と共に確かに位置が変わり、移動しているようだ。 これが恒星間彗星、ボリソフ彗星なのだろうか?

26:30
まだ月は沈んでおらず、コップ座の高度も低く、空の明るさも 20.7 mag/arcsec2 で視野内に見える星も14.5等がやっと。 シーイングも悪く、彗星らしいものは全く見えない。

26:45
月が沈み、空の明るさは 20.9 mag/arcsec2 となる。 最微等星は15.8等。 視野内にもだいぶ星が見えてきた。 彗星の推定位置は15.8等の恒星のかなり近くのようで、この星と重なっているような、近くに淡くいるような、見えるか見えないか、かなり微妙な感触。

27:10
空の明るさ 21.5 mag/arcsec2 。 シーイングは少し改善したが、良いときと悪いときがある。 それらしい位置になんとなく淡い「何か」の存在を感じる。 位置も前回と少し違う。 多分、ボリソフ彗星が見えているのだろう。

27:15
スケッチ開始。 まずは周囲の恒星のプロット。 最微等星は16.9等。 スケッチの視野外の16.8等の星も見えたのでこのぐらいまでは間違いなく見えていたと思う。 一方で事前に調べていた17等台の恒星はまったく分からなかった。

27:30
淡い「何か」の位置を記録。 暗い星もない領域(スケッチ中央左)に淡い「何か」があるように感じた。 淡くぼわっとしたものが確かに存在する。 意外と大きく広がって感じたが、おそらくこれは目の感度不足が原因で淡く広がって見えたのだろう。 彗星のコマが見えているわけではないと思う。 もちろん尾のようなものも全くわからない。 ただ、とにかく、かろうじて淡い「何か」の存在が分かるといった程度。

27:50, 28:00
淡い「何か」の位置を記録。 確かに動いているようだ。

28:30
淡い「何か」は恒星(スケッチ視野外、15.9等)の近くに位置するようになり、再びよく分からなくなった。 そらし目で観察を続けてみたが、ここでスケッチ視野外にある10.8等の明るい星を見てしまうとしばらく目に残像が残ることに気がついた。 望遠鏡を少し揺らすと残像なのか天体なのかは区別できるものの、かなり厄介。 10.8等の明るい星はスケッチ開始時は全く視野には入ってなかったためスケッチで見えた淡い「何か」はこの残像ではないと思われるが、28:30現在その区別は難しい。

28:50頃、撤収。

全体を通して、シーイングは最良では無く、時折悪くなるが、良くなった瞬間に星像がぐっと締まり、そのときチカチカっと暗い恒星が見え、それらしい位置に淡い「何か」がかすかに存在するように感じた。 なのでボリソフ彗星が見えたかどうかと聞かれると、正直自信が無い。 が、確かに淡い「何か」は見えたように思う。

なお望遠鏡の倍率は320倍だと星像はシャープだが彗星は小さすぎるのか、よく分からなかった。 460倍で恒星はシーイングによってぼやけたりシャープになったりを繰り返すものの、背景の暗さと分解能のバランスが良いのか、そらし目で見ていると淡い「何か」の存在を感じた。 680倍だとさすがに倍率が高すぎて星像がぼやけ、全体的に淡くなってコントラストも悪く、よく分からなかった。


ちなみに空の明るさが21.5 mag/arcsec2で瞳径が1.3 mmなので 計算上 は17.1等まで見えていたことになる。 これは16.9等の星が見えて17等台の星が見えなかったこととうまく対応する。

さらに空の明るさが21.5 mag/arcsec2で瞳径が1.3 mmなので 計算上 アイピース視野内の背景の見かけの明るさは25.2 mag/arcsec2だったことになる。 ヒトの目の検出限界は26.0 mag/arcsec2なのでボリソフ彗星はこれよりも明るかったと考えると、ボリソフ彗星の実際の表面輝度は22.3 mag/arcsec2より明るかったことになる。 ここでボリソフ彗星は半径9 arcsecの範囲に全光度の80%の光が集光していたと考えると、ボリソフ彗星の全光度は 22.3 + 2.5log(0.8) - 2.5log(92π) = 16.0等級となる。 概ね予想通りの明るさだったと思われる。

また、見えていたボリソフ彗星の大きさが半径9 arcsecだったと考えると320倍ではボリソフ彗星の見かけの大きさは1.6度となり、計算上 はヒトの目の分解能の限界1.5度よりも大きく、ギリギリ見えたことになるが、判別は難しかったと思われる。 460倍なら見かけの大きさは2.3度となり、十分に見られる大きさだったと思われる。 680倍なら3.4度とさらに余裕で見られる大きさとなるが、一方で瞳径が0.9 mmと小さくなるため彗星の見かけの明るさは26.8 mag/arcsec2となってしまい、ヒトの目の検出限界26.0 mag/arscec2を超えてしまい、見えなくなったと思われる。 このあたりも実際の観望体験とうまく対応しているように思う。


スケッチ時刻のボリソフ彗星の位置は HORIZONS Web-Interface より赤経 11h 26m 40.79s、赤緯 -17° 33' 34.0'' と推定される。 Aladin Lite であらかじめどこに見えるかファインディングチャートを用意して観望・スケッチした。

天体のデータ
2I/Borisovコップ座彗星(16等級?)(0.3'?)2.0天文単位
スケッチデータ
スケッチ終了日時2019年12月6日27時30分
観測場所ハワイ島 マウナロア山 観測所前の駐車場 (海抜3,400m)
使用機材自作60cmドブソニアン + SIPS + XW5 (460倍、0.15度)