自作60cmドブソニアン計画で用いる副鏡について詳細に検討します。
結論:主鏡口径 DA とケラれの生じない像高 y が決まれば光路引き出し量 lS は一意に決定できる。
ニュートン反射の場合、副鏡で光路を90度曲げて主鏡の光路を遮らない場所に結像させるような光学レイアウトとなります。 この副鏡で折り曲げて結像するまでを「光路引き出し量」と呼び、どれだけ光路を引き出すかを決定する必要があります。 そこで、ここではある像高(画角)y の時に主鏡の光路を全く遮らないような光路引き出し量 lS を考えることにします。 主鏡口径(直径)を DA、フィルター枠の厚さを tF、パラコアの鏡筒長を tP、パラコアの合焦位置の変化を fP とすると、以下の式で表すことが出来ます。
ここで具体的に tF、tP、fP は以下の値となります。
フィルター枠の厚さ tF | 5.0 mm |
Paracorr Type2 の鏡筒長 tP | 75.0 mm |
Paracorr Type2 の合焦位置 fP | -14.0 mm |
よって主鏡口径 DA と像高 y が決まれば光路引き出し量 lS は一意に決定できることになります。 ここで主鏡の光路を全く遮らないような像高 y(画角)は任意に設定できますが、自作60cmドブソニアン計画では y = 7.5 mm として設計することにします。 これは 4.1.12. 遮蔽とケラれについて(まとめ)に書いたように F3.3 の望遠鏡では 4.1.10. パラコアによるケラれ や 4.1.11. フィルターによるケラれ が大きく、y > 9 mm ではケラれの影響が出てしまい、大きくしても意味が無いからです。
ここで自作60cmドブソニアン計画の場合を試算すると、口径 DA = 24 inch = 609.6 mm 程度を検討しており、像高 y = 7.5 mm を指定すると主鏡の光路を全く遮らないような光路引き出し量は lS = 406.3 mm と求まります。
なお今回求めた光路引き出し量の式の形から、小口径ほど口径に対して大きな量を確保しなければならないこともわかります。 以下に口径に対する光路引き出し量の比をプロットしました。 例えば主鏡口径 8 inch = 203.2 mm の場合、光路引き出し量は 203.1 mm と、口径とほぼ同じ量が必要となりますが、口径 24 inch = 609.6 mm の場合だと 406.3 mm とおよそ 67% 程度で良いことになります。 この違いは 4.5.2. 副鏡の大きさ(中央掩蔽率)に大きく影響することになります。
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ここで考えた光路引き出し量の考え方・計算自体は正しかったのですが、いくつか数値が適切でありませんでした。 主鏡口径 DA は物理的な直径ではなく光学的に有効な有効口径を使うべきで、この場合 DA = 605 mm でした。 また高倍率で使うことがほとんどで、必要な像高も y = 5.0 mm 程度あれば十分なようでした。
主鏡の有効口径 DA | 605 mm |
必要な像高 y | 5.0 mm |
これらの数値で計算し直したところ、光路引き出し量は lS = 401.5 mm となりました。 さらに実際の観望ではフィルターはほとんど使うことがないことが分かってきたため、光路引き出し量はもう少し小さくてもケラれは生じないはずです。 よって自作60cmドブソニアンの最終的な設計では光路引き出し量は 400 mm とすることにしました。
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結論:ケラれの生じない像高 y、光路引き出し量 lS を指定することで必要な副鏡の大きさ DS は一意に決定することが出来る。
ある像高(画角)y、ある光路引き出し量 lS の時に副鏡によるケラれが生じない副鏡の大きさ(短径)DS は主鏡口径(直径)DA、主鏡焦点距離 fA から計算することができます。 計算の見通しをよくするため xa と xb を以下と定義すると、 副鏡の大きさ(短径)DS は以下で書き表すことができます。
自作60cmドブソニアン計画の場合、主鏡直径(口径)は DA = 24 inch = 609.6 mm を検討しています。 そこで像高 y = 7.5 mm および光路引き出し量 lS = 406.3 mm を指定すると、主鏡のF値をパラメーターとして、必要な副鏡の大きさ(短径) DS は以下の図のようになります。
この図から、F値が小さいほど大きな副鏡が必要になる事が分かります。 F値が 3 を下回ると飛躍的に大きな副鏡が必要な事が分かります。 逆に、F6.5 程度であれば自作40cmドブソニアンで使用している短径 3.1 inch の副鏡でもケラれが生じないことが分かります。
自作60cmドブソニアンの場合、4.2.1. 主鏡のF値 は F3.3 を想定してます。 そのため必要な副鏡の大きさは計算から DS = 138.1 mm = 5.44 inch と求まりました。
また口径に対する必要な副鏡の大きさの比(中央掩蔽率)を口径毎にプロットしました。 F3.3、像高(画角)y = 7.5 mm を仮定し、パラコア・フィルターを使っても主鏡光路を遮らない光路引き出し量を仮定して計算しました。 この図から口径が小さいほど口径に対して大きな副鏡を使用しなければケラれが生じてしまうことがことがわかります。 F3.3 でパラコアを使う場合、口径 12 inch = 304.8 mm より小さい場合は少なくとも中央掩蔽率が 30% を超えるような大きな副鏡を使用しないといけないことがわかりました。
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ここで考えた副鏡の大きさの計算方法自体は正しいのですが、いくつかパラメーターが変更されたため、計算結果も変更になりました。 パラメーターを以下の数値に変更し、計算し直しました。
像高 y | 5.0 mm |
光路引き出し量 lS | 400 mm |
主鏡の有効口径 DA | 605 mm |
主鏡焦点距離 fA | 1967 mm |
計算の結果、必要な副鏡の大きさは DS = 134.0 mm = 5.28 inch と求まりました。 よって自作60cmドブソニアンでは、副鏡の大きさは短径 5.28 inch 以上であれば良いとわかりました。
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結論:副鏡オフセット量 dO は主鏡口径 DA、F値、光路引き出し量 lS、像高 y を指定することで一意に決定することが出来る。 自作60cmドブソニアン計画の場合は 14.4 mm となる。
副鏡オフセット量 dO は光路引き出し量 lS と 4.5.2. 副鏡の大きさ で用いた xa、xb を用いて以下の式で書くことが出来ます。
ちなみにここで求めた副鏡オフセット量 dO は副鏡面上での(幾何学的な)中心からの距離となります。 光軸から平行移動させる量としてはこの値を 2 の平方根で除することで求められます。
ここでこれまで考えてきたパラメーターを代入して計算したところ、自作60cmドブソニアン計画の場合、副鏡オフセット量は dO = 14.4 mm、光軸から 10.2 mm と計算されます。
また今回求めた副鏡オフセット量を口径をパラメーターにプロットしてみました。 F3.3、像高(画角)y = 7.5 mm を仮定し、主鏡光路を遮らない光路引き出し量 lS を仮定して計算しました。 この図から副鏡オフセット量は口径に対して(F値を固定した場合)"ほぼ"比例することがわかりました。
なおここで副鏡オフセット量 dO は像高(画角)y の関数となっている点に注目する必要があります。 副鏡オフセット量は主鏡口径 DA、F値、光路引き出し量 lS に加え、最適化したい像高(画角) y も計算に入れてその量を決定する必要があることになります。 これは撮影用で視野の広い望遠鏡と相対的に視野の狭い眼視用の望遠鏡では最適な副鏡オフセット量が異なることを意味します。
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ここで考えた副鏡のオフセット量の計算方法自体は正しいのですが、いくつかパラメーターが変更されたため、再計算しました。 再計算したところ、副鏡オフセット量は dO = 14.3 mm、光軸から 10.1 mm となりました。 ほとんど変更はないようです。
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結論:副鏡の厚さは強度と放熱特性を両立するものを選択する。
4.2.2. 主鏡の厚さ と同様に、副鏡の厚さは光学性能に大きな影響を与えると考えられます。 副鏡が薄い場合は「放熱に必要な時間が短い」といった利点がありますが、「鏡面がたわみやすく、また壊れやすい」といった欠点があります。
自作60cmドブソニアン計画では副鏡の重さは十分な強度がある厚さでかつ出来るだけ薄く放熱特性に優れたものを使用したいと考えます。
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結論:副鏡短径が 5.5 inch の場合、その重量は 厚さ 1.0 inch の場合 1.23 kg となる。
ここでは副鏡の重量を見積もります。 主鏡の重量は口径、厚さ、鏡材の比重の3つのパラメーターで記述できます。 副鏡直径(短径)を DS、鏡の厚さを tS、比重を ρ と書くと、副鏡の重量 MS は以下の式で書き表すことが出来ます。
以下、パイレックス (比重 2.23 g/cm3) の鏡を仮定して短径および厚さを変えた場合の副鏡の重量を計算しました。
厚さ tS ('') | 短径 3.1'' | 短径 5.0'' | 短径 5.5'' | 短径 6.0'' |
---|---|---|---|---|
1 | 0.39 kg | 1.01 kg | 1.23 kg | 1.46 kg |
7/8 | 0.34 kg | 0.89 kg | 1.07 kg | 1.28 kg |
3/4 | 0.29 kg | 0.76 kg | 0.92 kg | 1.10 kg |
自作60cmドブソニアン計画の場合、4.5.2. 副鏡の大きさ で議論したように副鏡短径は 5.5 inch が良さそうです。 5.5 inch の副鏡の場合、その重量は 1 kg 程度となるようです。
ところで自作40cmドブソニアンの場合には短径 3.1 inch = 78 mm、厚さ 3/4 inch = 19 mm の副鏡を用いました。 重量は 0.29 kg と、今回検討している短径 5.5 inch の副鏡と比べると約 1/4 の重さであることがわかりました。 副鏡の重量は40cmドブの場合と比べて大きく、固定方法や副鏡セルの構造を工夫する必要があると言えるかもしれません。
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結論:副鏡の温度順応をシミュレートした結果、充分に外気温になじむには約 2.5 時間必要な事が分かった。 強制送風ファンが必要かもしれない。温度順応が十分の進むと副鏡は外気温よりも冷たくなり、結露する可能性がある。
4.2.5. 主鏡の温度順応 で述べたことと同じ理由で、副鏡も観望前に充分に外気温になじませる必要があります。 副鏡の場合も、Cruxis Telescope の Telescope Mirror Cooling Calculator で公開されている "MirrorCooring.exe" というソフトを使って簡単に計算することが出来ます。 主鏡の場合と同様に、このソフトを使って自作60cmドブソニアン計画のスペックで見込まれる副鏡の温度変化を調べてみることにしました。
副鏡厚さ | 25.4 mm |
鏡の初期温度 | 25 deg.C |
開始時の気温 | 3 deg.C |
終了時の気温 | 3 deg.C |
計算時間 | 360 min. |
シミュレーション結果から副鏡温度が外気温より約 1 度高い温度になるには約 1.5 時間、外気温とほぼ同じ温度となるには約 2.5 時間必要な事が分かりました。 充分に外気温になじむには観望の数時間前から外気にならす必要があることが分かりました。 主鏡と同様、副鏡にも温度順応時間を短くするため冷却ファンが必要かもしれません。
なお入力パラメーターから分かるように、温度順応にかかる時間は鏡の厚さと温度条件から決まるようです。 そのため副鏡の厚さは薄ければ薄いほど、温度順応は早くなると考えられます。
またシミュレーション結果から、外気温と同じ温度になった後も副鏡は(放射で)冷え続けることも分かりました。 最終的には副鏡は外気温よりも約 0.5 度冷たくなってしまうようです。 副鏡表面の温度が周囲の空気の露点より冷たい場合は副鏡が結露することを意味します。 副鏡の結露はこれまでもよく経験してきました。 今回のシミュレーション結果もこれを裏付けるものでした。
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