ここでは自作60cmドブソニアン計画の 概念設計 に先立ち、自作40cmドブソニアン の運用から得られた経験をまとめます。
ブレインストーミングによって、良かった点と問題点を洗い出します。
- 光学系
- 主鏡セル
- 高度軸
- トップリング
- トラス棒
- 水平軸
- ファインダー
- 迷光対策
- 風対策
- 夜露対策
- 光軸調整
2.1. 光学系
- 40cmドブの主鏡は フーコーテスト の結果、PV波面誤差は1/2.7λ (波長λ=500nmで計算) とあまり良いものではなかった。
- フーコーテストの結果は負修正だった。恒星内外像からも負修正の傾向が見られた。
- しかし210倍での観望・天体スケッチもなんら問題無く行えた。光学系の不良がなければもっと詳細が見えていたのかもしれないが、比較対象がないため分からない。
- 取り扱いが悪いためか、鏡面には微小な傷や塗料の付着といった劣化が見られる。
- 反射率は購入10年後の2015年に測定したところ、主鏡 91%、副鏡 92% (波長λ=670nmで測定)とカタログスペックより 5% 程度低下している。
- 主鏡はよく汚れた。車の中で保管するのが良くなかったのか。特に春は砂埃が付着し非常に汚くなった。(おそらく主鏡は車内で保管中に昼夜の寒暖差で結露していたと思われる。)
- 副鏡は殆ど汚れなかった。斜鏡は下を向いた状態で車に積むため、埃が付着しにくかったのだろうか。
- 主鏡の厚さは 41mm = 1+5/8 inch のパイレックス鏡だったがセルのたわみや光軸の不良、温度順応の悪さを感じたことはなかった。
- 最初の30分は温度順応されず星はぼやけて見えたが、それ以降は悪く感じたことはなかった。
- 観望中に主鏡が結露したことはなかった。それに対して副鏡はしょっちゅう結露した。
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2.2. 主鏡セル
- 主鏡の光軸調整ネジが遠く、光軸調整で主鏡裏と接眼部を何往復もするのはとても大変だった。
- 主鏡の光軸調整ネジはM8の六角ボルトのままで、当初はスパナを使って回す予定だったが指で少し力を入れると簡単に回すことが出来た。
- 主鏡の側面をベルトで吊す構造としたが、左右方向に主鏡が動いてしまう自由度が残っているため、観望中に光軸がずれることがあった。
- 18点支持は良く機能していると思う。主鏡のたわみによる星像の悪化は感じられなかった。
- 主鏡セルのフレームを作る際、きちんと水平をとらずに溶接したためセルのフレームがねじれてしまった。治具をまず作り、それで溶接するべきだった。
- 主鏡押さえ爪がないため水平以下に向けると主鏡が落下する。完成直後に胎内星祭りでお披露目しようとハンドルを付けて組み立てたまま輸送中に主鏡を落としてしまった。幸い破損はなかった。
- 主鏡の裏からの迷光で視野が明るくなることがあった。特に雪が積もっていて地面が白いときや市街地での観望時。主鏡セルの後ろに黒い布を取り付けて遮光するといくらかマシになったような気がする。
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2.3. 高度軸
- 高度が高いときは 1kg 前後の重量のアイピース交換をしても動かず、楽に運用できた。
- 高度が30度以下になるとアイピース交換で望遠鏡が動き困った。
- 設計当初より 2kg 近くトップリングが重くなってしまった。トラス棒をステンレスからアルミに変更し、主鏡セルに鉛の重りを取り付けて対応したが、もう少し余裕を持たせて設計すべきだった。
- 高度軸は直径 400mm としたが、もう少し大きい方が良かったかもしれない。アイピース交換時にも望遠鏡が動くことがあり不快だった。
- 高度軸はミラーボックスから 100mm 程度出っ張っており、収納時に特に邪魔に感じた。ミラーボックスとロッカーボックスがうまく重ならないので、車載時にかさばった。
- 高度軸は平滑に加工した合板 (t=38mm) に t=0.5mm のステンレス板を貼り付けたが、固定に使用したボンドが平滑でなく表面が凹凸になってしまった。これに引っかかることで高度軸の動きに必要な力が一部で不連続となり、不快な箇所がある。
- 貼り付けたステンレス板の末端処理が不適切で、怪我をしたことがあった。星を見るような暗くて寒い場所で指を怪我しても気がつかないことがあるので、特に気をつけなければ。
- 水平以下に向けられらないようなストッパーを設けなかったため主鏡を落下させてしまったことがあった。メシエマラソンや彗星観望など、低空を向けることもあり、安全に見るためにもストッパーは必要だと思う。主鏡押さえ爪が出るのが気に入らないが。
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2.4. トップリング
- 自作40cmドブソニアンは酒居さんのドブをまねて「トップリング」を採用した。トップケージ(鳥かご)ではないが問題は無かった。
- トップリング式はコンパクトに収納できるのが最大の利点。
- ただし副鏡スパイダーを自作しなければならないのがトップリング式のデメリット。
- トップリングには通常遮光用にプラスチックダンボールを巻いた。
- 接眼レンズに直接入射する光を遮るように遮光板は設計した。これがかなり効果的。無いと明らかに背景が明るくみえる。但し車のヘッドライトで周囲を照らされるとどうしても視野内も明るくなってしまいダメ。
- 遮光板のため強風時に望遠鏡が動いてしまい、観望が大変。機材破損のリスクから現場を離れられなくなったり、設置を諦めたことも何度かある。
- スパイダーは 1.5mm 厚の鉄だが、十分な剛性があるように思う。
- 副鏡は初期にはコーキング材で貼り付け、最終的には強力両面テープで貼り付けとしたが、脱落などの事故は全く経験しなかった。
- 副鏡の主鏡のたわみによる星像悪化は感じられなかった。
- 副鏡の光軸調整ネジにはM8ネジを使用したが、硬くて回しにくく、ピッチが大きく操作性が悪かった。回すのに工具が必要で、たわむ。
- 副鏡はしょっちゅう曇って困った。厚みが 19mm = 3/4 inch と薄く、放射冷却で周囲より冷たくなってしまうのが原因だろう。
- 接眼部のJMI NGF-3DXフォーカサー (モーター付) の電動フォーカサーは惑星観望などの高倍率の時のみ使用したが、必要性は殆ど感じなかった。確かに詳細なピント合わせではモーターだと振動がなくて快適だったが、コントローラーの付け外しが面倒で結局あまり使わなかった。
- 接眼部の動きはガタやバックラッシュはないが、あまりなめらかではなかった。カク、カクと動くような感じ。不快ではないが、もっとなめらかだと手動でも高倍率で詳細にピント合わせが出来ると思われる。
- フィルタースライダーを取り付けたが、結局あまり使う事はなかった。これは夜露対策をきちんとしていなかったこと、口径が 40cm であまりフィルター効果を体感できなかった事によると思われる。
- フィルタースライダーはパラコア前に取り付けたが、これによって視野周辺のケラれ量が大きくなってしまった。明らかなデメリット。
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2.5. トラス棒
- Φ=19mm、t=1.0mm のアルミパイプで作ったトラスだったが、剛性は充分に高く快適だった。
- 黒く塗って迷光対策を施したが、効果があったかは不明。現在は塗装が剥がれ、綺麗ではない。
- トラス部全体を覆う遮光布も用意したが、市街地での観望会以外では必要ないと思った。むしろ強風にあおられるリスクといったデメリットの方が大きいと思う。
- トラス棒を格納する布ケースか、パイプが合った方が良いかもしれない。トラス棒が輸送中に車に当たる。目立つ場所に傷を付けてしまった。
- トラスはがっちりと組まれ、望遠鏡は全体として一つの剛体のように、リバウンド無く快適に動かす事が出来た。自作40cmドブソニアンの最大の美点。サークルの後輩の、市販のドブはこうではない。
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2.6. 水平軸
- 高度が低い場合はちょうどよい重さで、なめらかに回転させることが出来た。
- 天頂付近を向いているときは回転が非常に重く、追尾が大変だった。
- ステンレス板を貼り付けたが、末端の処理が悪く指を怪我してしまった。
- ロッカーボックスはもっと軽く作っても良いと思う。今の物は重すぎるように思う。
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2.7. ファインダー
- 色々試したが、私には5cm8倍の、国際光器で売っている正立ファインダーが一番合っているようだ。
- テルラドファインダーや他の等倍ファインダーも試したが、私には向いていないようだ。メシエ天体のような明るい天体なら、これらで適当に近くに導入し、少し振り回すだけで簡単に導入可能だが、暗くて小さい天体だとこの方法では導入出来ない。
- 6 [cm] 正立ファインダや 7 [cm] 倒立ファインダーも試したが、視野が狭く使いづらかった。
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2.8. 迷光対策
- 主鏡の裏から迷光を良く拾うことがわかった。雪が積もっているときに観望すると視野が明るくなった。市街地での観望でも同様。で、主鏡セルの後ろに黒い布を取り付けて遮光すると、いくらかマシになるような気がした。この部分は直接アイピースに光が入射することになる。
- 市街地での観望会ではトラス部・主鏡裏を完全に覆う遮光布を用意したが、これらを駆使すると市街地でも問題無く使用出来た。
- 接眼レンズに直接入射する光を遮れば、トラス部全体を覆う遮光布は必要ないと思われる。
- 観望中にアイピースを覗いていない「左目」付近も遮光する必要があると思われる。
- 車のヘッドライトに照らされると視野が明るくなってダメ。観望の時は我慢できるが、グレージング等の観測では致命的。観測に使うのならしっかり対策するべきだし、観測に使わないなら、割り切った設計も良いかもしれない。
- 自宅周辺は天の川も充分見える環境だが、街灯がけっこうあって適さない。適切に遮光できれば観望の機会も増えるように思う。
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2.9. 風対策
- 風が強いと望遠鏡が動いてしまい、観望が大変。転倒のリスクもあり、望遠鏡から離れられない。
- 強風によって望遠鏡が立てられないことが多々あった。
- 風が強くてどうしようもないときは、トップリングの遮光板を巻かずに観望したこともあった。こうすれば風で動くことはなくなったが、視野が明るくなってしまい面白くない。
- トップリング付近の面積が小さければ、風によって望遠鏡が勝手に動いてしまうことはない。
- 水平回転して困ったことは殆ど経験していない。強風で動くのは主に垂直軸方向。
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2.10. 夜露対策
- 仙台近郊での使用では、夜露対策は絶対に必要。
- ヒーターでほんの僅かだけ温めるだけで夜露は付かなくなるようだ。放射冷却以上の熱量を与えれば良い。
- 主鏡は熱容量が大きいからか、観望中に結露したことは一度もなかった。(が、熱容量が大きいため車内で保管中に昼夜の寒暖差で結露する可能性がある)
- 副鏡はしょっちゅう結露して観望を妨げた。ヒーターで常時温めることで回避した。
- ファインダー対物側もよく結露した。これもヒーターで対処した。
- ファインダーの接眼レンズや、アイピースは恐らく(湿度の高い)自分の吐息も結露の原因の一つだと思う。結露対策でヒーターが必要。
- なぜかパラコアの対物側は曇らなかった。ここにヒーターを取り付けるのは難しいかも。少なくともJMI NGF-3DX接眼部だと直接ヒーターを巻くことが出来ない。もっとドロチューブの短いフォーカサーならパラコア先端にもヒーターが巻けるかもしれない。
- 夜露対策をしているかしていないかで、観望時間や回数がぐっと増える。他の望遠鏡が曇った中でも観望を続けられるのはちょっとした優越感を感じることも。
- ヒーターには「一時的に加熱して結露した光学系を乾かす」タイプと、「ほんの僅か加熱して結露することを防ぐ」タイプの2種類があると思う。自作40cmドブソニアンは後者のタイプで、全く問題無く観望し続ける事ができた。
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2.11. 光軸調整
- 自作レーザーコリメーター のみで、ほぼ光軸合わせはOKだった。150倍程度までならこの程度でOKだと思う。
- 多少のアスが見られることもある。この場合恒星像を見て追い込むこともあった。
- ハワイ転居後、300倍やより高倍率で見るようになって、より精密に合わせる必要を感じてきた。
- 主鏡・斜鏡はそれぞれのセルで適切に支えられているようで、望遠鏡の高度によって光軸がずれるとは殆ど感じなかった。トラスがしっかり組まれているのも良かったのだろう。
- しかし主鏡は横方向に自由度が残されており、水平回転を勢いよくしてしまうとずれる可能性がある。時間をかけてしっかり光軸を合わせても、イマイチぱっとしない星像のときがあるが、このためかもしれない。
- 主鏡セルは工具レスで動かせたが、接眼部との往復が大変だった。電動化したい。
- 副鏡セルは六角レンチが必要だったが、回転が渋く、たわみもあって操作性が悪かった。ネジをもっと小さいもの、つまりピッチの小さいネジを使用すればよいと思う。
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