2006年1月から3月にかけて製作した、40cmドブソニアンについて紹介します。 天体の観望や天体スケッチを楽しむ為にこの望遠鏡を自作しました。

自作40cmドブソニアンの全体像の写真
2007年02月20日 東北大学天文同好会 安達観測所にて

光学系概要

自作40cmドブソニアンの主鏡の概要
物理直径406.4 mm (16 inch)
有効口径402 mm
厚さ41 mm (1-5/8 inch)
形状回転放物面
焦点距離1824 mm (71.8 inch)
(フーコーテスト時に測定、2015年5月17日)
F値4.54
鏡材パイレックス
重量13.4 kg
コーティングUpgraded Enhanced Aluminum Coatings
(Enhanced Aluminum (2層) と推定)
反射率90%
(波長500 nmでの値、2017年4月4日測定)
鏡面精度PV = 92.5 nm
(波長500 nmの場合 λ/5.4、2015年5月17日測定)
波面精度PV = 185nm
(波長500 nmの場合 λ/2.7、2015年5月17日測定)
製造元Discovery Telesopes
自作40cmドブソニアンの斜鏡の概要
短径78 mm (3.1 inch)
厚さ19 mm (3/4 inch)
形状平面
重量0.29 kg
鏡材パイレックス
コーティングUpgraded Enhanced Aluminum Coatings
(Enhanced Aluminum (2層) と推定)
反射率94%
(波長500 nmでの値、2017年4月4日測定)
製造元Discovery Telescopes
自作40cmドブソニアンの光学系の概要
主鏡支持方法18点支持
斜鏡支持方法両面テープによる貼り付け、3点支持
斜鏡オフセット有り、5.6 mm(作図により決定)
斜鏡遮蔽率19%
ファーストライト2006年2月24日

主鏡・斜鏡はともに個人輸入しました。 40cmクラスとなると国内メーカーでは非常に高価なものとなってしまうため最初から個人輸入を考えました。 何社かアメリカのメーカーに問い合わせ、口径、価格、納期からDiscovery社から個人輸入することにしました。 元々は38cmの購入を考えていましたが「38cmは納期60日、40cmだと即納で値段は同じ」といった提案があり、40cmを購入することにしました。

主鏡・斜鏡の写真
2006年02月 主鏡・斜鏡が届きました。

望遠鏡の構成

製作コンセプト

私のような素人が工作をする場合、まずはしっかりした計画が必要です。 目的は何か、どうやって作るのか、保管や運用は大丈夫か、等々、予めよく考えておくと失敗しないものづくりが出来るはずです。 私は製作前に以下のコンセプトで自作することを考えました。

1. コンパクトで出来る限り大口径

計画当初、運搬手段は平成8年式のワゴンRだったのでこの車に載ることが第一条件でした。 さらに望遠鏡を車に乗せっぱなしにて収納場所も兼ねる予定だったので、出来るだけ小さく、トランク+1人分のスペースで望遠鏡が収まるようにも計画しました。

これらの制約から梱包状態での最大幅は530mmとなりました。 口径38cmぐらいが適当な大きさだ考えました。 (実際はDiscovery Telescopesとのやりとりで40cmになりました。)

2. よく見える

せっかく自作するので出来るだけよく見える望遠鏡を目指しました。 よく見える望遠鏡とするためにはもちろん主鏡・副鏡の鏡面精度や反射率、接眼レンズ等の光学系が十分に高精度である必要があります。 私は今回の自作では光学系をアメリカから個人輸入する事にしました。 アメリカでは放物面研磨を専門とする光学メーカーが多数あり、比較的安く高精度の鏡が入手可能です。

さらに良い光学系があってもそれを直接支える主・斜鏡セル、そしてたわみの出にくい構造でなければよく見える望遠鏡にはなりません。金属で作ったり、きちんとトラス構造にしたりすることでしっかりと光学系を保持し、さらにたわみのない剛性感ある操作性を目指しました。高剛性は導入や追尾の快適さにもつながります。

なお非常に個人的な意見になりますが、主鏡の鏡面精度について、21世紀にもなってろくに放物面も磨けないようなメーカーが存在すると考えること自体、私は不合理なことだと思っています。

3. 安く

自作の経験が得られた、とか、製作の過程そのもので楽しめた、と言い訳するのも良いのですが、せっかくの自作なので市販品より安く作る事を目標に作りました。しかし製作を決意した2006年当初は60-70万円していた40cmドブも2011年現在では23万円程度で買えるようになってしまって、この目標は達成出来ませんでした。

4. 金属で作る

主鏡セルやトップリングなどは木で作るとどうしても強度を考えると大きく重くなってしまいます。 意外と木は軽くて強度があり侮れませんが、今回はこれまでに経験のない金属(主に鉄)で作る事にしました。 相対的に軽く丈夫なものが出来たと考えたからです。 溶接や銀ロウ付け等は今回の望遠鏡の自作ではじめて挑戦しました。 家庭用溶接機やガストーチを購入して行いましたが、意外と簡単にかつ十分な強度のものが製作できました。

設計

高校生の頃にR200SSを改造してドブソニアンを自作した事がありましたが、その時は模造紙に設計図を原寸大で引きました。 さすがに40cmは大きいので模造紙をはみ出してしまいます。 ですのでパソコン上に設計図をひいて色々と考えました。 設計にはフリーの2次元CAD AR_CAD を使いました。 CADソフトは模造紙に原寸大で作図するよりはるかに高精度に、そして簡単に図形を描く事が出来、更に計測ツールを使って長さを測る(記入する)ことが出来るので大変便利です。

参考までに以下に製作開始時の設計図を置いておきます。 現在も少しずつ改良しているため設計図と異なる箇所が多々あります。 あくまで参考としてご覧下さい。

重心の計算

ドブソニアンはフリーストップ式の望遠鏡なので重心位置が重要になります。 というのも耳軸(高度軸)を重心位置に一致させないと望遠鏡はバランスがとれず勝手に動いてしまい、一定の方向に向けることが出来ないからです。 完成後にカウンターウェイトやバネを取り付けて重心を調節することもできますが、私は設計段階から重心位置を把握したいと思いました。 そこで重心位置を計算して設計しました。 (実際にはファインダーを重い物に交換したり、1kg近いアイピースを使用したりしたため重りをつけないとバランスが合いませんでした。)

重心(質量の中心) は以下の式で表せます。

ここで は各要素の質量、 は各要素の位置を表します。この式を解き直すと

となります。 をベクトルの原点とすると となるので、重心を耳軸の中心にするためには各要素の質量に各要素の耳軸からの距離をかけたものの和が 0 となればよいことがわかります。

各要素の重量は体積に比重を乗じて求めたり、実際に製作した部品から測定して求めました。 重い2インチアイピースなどは取り付けた時と外したときで接眼部の重さが1kg以上変わることもあるので、ちょうどアイピースの半分の重さで重心が耳軸に来るように設計しました。

望遠鏡工作でよく使う材料の比重一覧
パイレックス2.2g/cm3
ソーダガラス2.5g/cm3
アルミ2.7g/cm3
7.9g/cm3
ステンレス7.9g/cm3
プラスチック段ボール0.2g/cm3
11.4g/cm3
11.5mm厚コンパネ0.6g/cm3
25mm鉄角パイプ(1.6mm厚)1.2kg/m
16mm鉄角パイプ(1.6mm厚)0.81kg/m
13mmステンレスパイプ(1mm厚)0.30kg/m

製作費

総工費\380,763-
光学系輸入\200,003-
その他輸入\40,998-
材料費\50,231-
その他\29,019-
工具代\40,412-

今回のドブソニアンの製作では以下の工具を新規に購入したので結果的に費用がかさみました。 なお工具はどれも正月にセール品等を安く買いました。

また「その他」とは買ったは良いけれど実際の工作には使わなかった材料・工具です。 道具さえそろっていれば、実際は30万円程度で出来たことになります。

組み立て

1. 車から望遠鏡を降ろす

特にミラーボックスが重く、腰を痛めそうです。

車から望遠鏡を降ろした写真

2. ロッカーボックスの上にミラーボックスを乗せる

ロッカーボックスの上にミラーボックスを載せた写真

3.トップリングの取り出し

ミラーボックスの上に乗っている観測机を外し、トップリングとトップリングカバーを取り出します。

ミラーボックスの中にトップリングが入っている写真

4. 観測机の組み立て

トップリングを観測机の上にとりあえず載せます。

トップリングが観測机に乗っている写真

5. トラス棒の取り付け

ロッカーボックスにネジ(ノブスター)で取り付けます。

ミラーボックスへトラス棒を取り付ける写真

6. トップリングの取り付け

トラス棒にトップリングを取り付けます。ここもネジ(ノブスター)です。

トラス棒にトップリングを取り付ける写真

7. トップリングカバーの取り付け

トップリングにトップリングカバーを取り付けます。迷光対策です。

トップリングカバーを巻き付ける写真

8. ファインダーの取り付け

ファインダーはトラス棒にクリップで取り付けています。

ファインダーをトラス棒に取り付ける写真

9. 重りの取り付け

ミラーボックスに重りを取り付ける写真

10. 光軸調整

ニュートン反射の光軸調整については別ページに詳しく記載する予定です。

11. ファインダーの調整

ファインダーと40cm望遠鏡の光軸を平行にする為、北極星を使ってファンダーを調整します。 北極星は明るい2重星ですが、シーイングが悪い時は分離して見えず、この時点で観望へのモチベーションが下がったりもします。

12. (必要に応じて)ヒーターの取り付け

アイピース、副鏡、ファインダーの対物レンズと接眼レンズの4箇所にヒーターを取り付けています。 これらのヒーターで結露を防ぎます。 電源ケーブルをバッテリーに接続するだけですぐ使う事が出来ます。

13. (必要に応じて)遮光カバーの取り付け

東北の観望地は非常に暗いためか、これまで市街地での観望以外で遮光カバーの必要性を感じたことはありませんでした。 むしろ強風に対して弱くなる(風によって望遠鏡が動いてしまう)デメリットの方が大きいように思い、私は殆ど使っていません。

観測場所に着いてから観測開始まで、ここまでおよそ20分程です。 実際は主鏡の順応を待たないといけないのでしばらくはすっきりしない星像です。 1時間ほどで本来の性能を発揮できるようになります。

組み立て完了の写真

メンテナンス

望遠鏡は使っている時間より収納している時間の方が圧倒的に長いと思います。 多い少いは別として、何かしらのメンテナンスは必要です。 ここでは私が行っているメンテナンスを紹介します。 下に行く程、めんどくさい度が上がります(笑)。

1. 観望後のメンテナンス

観望には必要最低限の機材しか持って行かない為、元通りに車に収まればOKと考えています。 なのでメンテナンスというより、次回困らないようにといった感じで以下のことをします。

2. たまにするメンテナンス

観望が終わった後、比較的時間があるときにするメンテナンスです。 やっぱりめんどくさいので、滅多にしません。

3. 鏡の洗浄

主鏡・副鏡はむき出しで車に乗せている為か、特に春一番が吹いた後の春先の観望では埃が多く付いてしまいます。 反射率も下がるようですし、カビの原因(エサ)にもなりかねないので年に一度程度は洗うことにしています。

3.1. 望遠鏡から主鏡と斜鏡を外す

斜鏡はセルとくっつけてるのでセルごと洗います。主鏡は上向きで保管しているのでかなり汚くなります。

望遠鏡からはずした主鏡と斜鏡

3.2. 水洗い

勢いよく水をかけることで、物理的に埃やゴミを流します。また親水性の汚れもこのプロセスで落ちることになります。

水洗いの写真

3.3. 洗剤で洗う

台所用中性洗剤で親油性の汚れを落とします。こすらず、軽く手で撫でます。

洗剤で洗う写真

3.4. 水洗い

もう一度水洗い。十分に洗剤を落とします。

3.5. 精製水で置換

最後に精製水をかけて水道水に含まれるカルキを落とします。こうすることで鏡面に水滴の跡が残らなくなります。

精製水をかける写真

3.6. 十分に乾かす

十分に乾燥させた後は望遠鏡に取り付けて光軸調整となります。

4. オーバーホール

自作の望遠鏡ということもあり、たまに塗装がはげたり溶接した所が取れたりします。 時間を見つけて車から降ろして、本格的にメンテナンスが出来ればと思っています。

4.1. 金属部分の塗装

金属部分は鉄なので、錆びた箇所や塗装がはげたところをサンドペーパーでこすった後、刷毛塗りします。

4.2. 木部分の塗装

ニスを塗っているので表面は堅い皮膜ができているのでぞうきんで拭くだけでだいたいOKですが、こすれたりでどうしようもないとき、 再塗装します。今のところまだ一度も再塗装していません。

4.3 収納

大学院の入試期間中は勉強に集中するため、望遠鏡を写真のように大きなビニール袋に乾燥剤と一緒に入れて封印しました。

望遠鏡を封印した写真

梱包・運搬

2006年~2008年まで、自作40cmドブソニアンはワゴンRで運用していました。 ここでは梱包・運搬の状態を紹介します。

車に積み込んだ写真1

ワゴンRに望遠鏡を積んで、更に3人乗れるようにするため、 完全にジグソーパズル状態で積載しています。 この状態で約1年間、2万km程走りましたが、望遠鏡・車ともに問題はまだ起こっていません。 本当は使わないときは機材を下ろした方がよいのでしょうけれど、面倒なのと、いつでも観望に出発できる事から、またアパートに置く場所がない事から車に乗せっぱなしにしています。 この写真では友人から借りたSKY90等の撮影機材も積んでいるためいつもより多くの機材を積んでいます。

車に積み込んだ写真2

横から撮った写真です。私のワゴンRは1+2ドアなので、運転席の後ろにはドアがないのでそこを埋めるように機材を積んでいます。 このように積む事で、常時3名乗車できるように工夫しました。

タイヤチェーン・スコップ・ブラシ・長靴の写真

冬場はこれにタイヤチェーン・スコップ・ブラシ・長靴が加わることになります。