私は望遠鏡で見た天体を見たままの印象で記録したいと思い、天体スケッチをはじめました。 ここでは私の天体スケッチを描く方法について紹介します。

  1. 天体スケッチの意義
  2. 天体スケッチの道具
  3. 天体スケッチの倍率
  4. 先入観について
  5. 天体スケッチの描き方
  6. パソコンへの読み込み
  7. 天体スケッチの応用
  8. 視野回転について

1. 天体スケッチの意義

天体スケッチは「天体の記録をとる」ということが本来の目的だと思います。 ガリレオやメシエ、ハーシェルやロス卿が活躍した時代にはまだ写真はありませんでした。 この時代は天体スケッチが言葉(文字)以外で記録を残す唯一の方法でした。

19世紀後半から銀塩写真、20世紀後半からCCDやCMOSといった撮像素子で天体の位置や明るさを正確に記録することができるようになりました。 21世紀になった今、天文学者が観測手段としてスケッチをするということは(私が知る限り)ありません。 それではもう天体スケッチは全く意味が無いものになったのでしょうか?

学問としての天文学としては、全くそのとおりだと思います。 しかし「趣味・楽しみ」としての天文としては、これは正しくないと思います。

私は2006年頃に 自作40cmドブソニアン を製作したのですが、はじめは単純に「こんなに見えるんだ」と嬉しくなって色々な天体を次々と見ていきました。 そしてしばらくして自作40cmドブソニアンを覗いて「見たものを見たままに記録に残したい」といった気持ちに至りました。 これが私が天体スケッチを始めるきっかけでした。

天体スケッチをはじめてすぐ、星の位置や天体を正しく描くことが想像以上に難しいことに気が付きました。 しかしこの技術的な難しさはかえって面白い・楽しいと感じる要素だとも気が付きました。

天体スケッチでは天体写真のように正確な記録は難しいです。 正確な記録を心がけても星の位置はうまく記録できません。 またスケッチ対象もその日の体調や気分で見え方も違うように思います。 しかしこれは天体スケッチでは望遠鏡を覗いて感じて、自分の「感情」を通して天体を記録したということでもあると言えます。 遥か彼方の天体からやってきた光。 それを望遠鏡で見つけたときの感動。 特徴的な構造や星の並び、その1つ1つを目で見て、頭で考えて、紙に記録する。 天体スケッチのプロセスその一つ一つが非常に面白く、楽しいのです。

天体スケッチを描こうとすることとは、意識して天体を見続けるということでもあります。 10分、20分と同じ天体を見続けて、その詳細を見て、考えて、紙に記録していくことになります。 漠然と眺めていただけでは見えなかった詳細な構造やより広範囲の大きな流れ、近くの星の特徴的な配列といったものはこのように意識して見続けることで初めて見えて、いや、理解できるようになります。 よく観望会などで月や惑星を見せると、多くの方は数秒見ただけでもう見るのを止めてしまいます。 これはとてももったいないと私は思うのですが、同じように眼視マニアが淡い天体を見る場合でも、せいぜい数分で見るのを止めてしまっています。 これもとてももったいないことです、 10分20分と見続けないと見えてこない、理解できないものがあります。 天体スケッチをすることで、漠然と眺めていただけでは気付かなかった情報を引き出すことができるようになります。 これが「趣味・楽しみ」としての天体スケッチの意義と思います。

また当たり前ですが天体スケッチをすることで記録が残ります。 天体スケッチは望遠鏡を使ってどう見えるかの良い参考になります。 そして前述の通り、私という個人の感情を通して天体スケッチを描いているため、天体スケッチは紛れもなく私自身の感情の記録でもあります。 過去の天体スケッチを見返すとその時の記憶が鮮明に蘇ってきます。 これらも「趣味・楽しみ」としての天体スケッチの意義だと思います。

色々と書きましたが、とにかく天体スケッチはとても面白く楽しいものです。 色々な楽しみ方があるなかで、その楽しみ方の一つとして「天体スケッチ」に興味を持ってもらえれば幸いです。

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2. 天体スケッチの道具

私はコピー用紙にHBの鉛筆で天体スケッチを描いています。 アイピースの視野の中では黒い背景に白い星や星雲銀河が見えますがこれを白い紙に黒い鉛筆でスケッチしています。 「ネガスケッチ」と呼ばれる手法のようです。 このような天体スケッチは以下のような比較的簡単に手に入るもので行う事ができます。 なお私は特に絵画の勉強をしたことはなく、すべて自己流でやっています。

天体スケッチの道具
天体スケッチの道具

天体スケッチの道具
鉛筆 HBの鉛筆
三菱鉛筆 ハイユニ HB
ハイユニが滑らかで好きです
同じHBでもメーカーによって硬さが違うようです
消しゴム 消しゴム
特にこだわりはなく、普通のものを使っています
クリップで紐をつけて画板から落ちないように工夫しています
鉛筆削り 鉛筆削り
トンボ鉛筆 ippo! Wシャープナー
細く削れるものが良いと思います
スケッチ用紙 スケッチ用紙
白色度66%のコピー用紙を使用:テンプレート [pdf] [docx]
スケッチ円は大きすぎても小さすぎても描きにくい、私の場合は直径75mm
クリアファイル クリアファイル
A4サイズのクリアファイル
長期保存することになるのでケチらずに文具店でメーカー製の良いものを買って使うのが良いと思います
画板 画板
コクヨ クリップボード ヨハ-28
クロス張りで適度なざらつきがあってこれが良いです
ストラップ ストラップ
紐とクリップで作った画板用のネックストラップ
ストラップを使うことで両手で望遠鏡の操作ができる
クリップ クリップ
風でスケッチ用紙がめくれてるのを防ぐためのクリップ
クリップは多数あると良いです
赤色照明 赤色照明
自作調光回路 付きの赤色照明を使っています
明るさ調整できるとよい
また明るさにムラがないほうがスケッチしやすい

天体スケッチに必要な道具を用意する上でおそらく赤色照明を用意することが一番のネックになると思います。 私は今はこだわって 自作調光回路 付きの赤色照明を使っていますが以前は市販の フレキシブルライト を赤色のフェルトを使って減光したものをL字金具で 画板に取り付けて 使っていました。 他にもクリップライトやブックライトといった市販のものに赤色のセロファンをかぶせて減光しても良いと思います。 簡易なものでも十分実用になると思いますので、色々と工夫してみると良いと思います。

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2.1 天体スケッチに使う紙について

私は「白色度70%程度以下」の古紙パルプ100%のコピー用紙を天体スケッチに使っています。 白黒反転させた時に適当な背景色が得られ、またザラザラとした手触りによって星雲の淡い広がりをうまく表現できると思っています。 具体的には以下で挙げるコピー用紙が良いと思います。

  1. TANOSEE αエコペーパー タイプRN A4:白色度66%、坪量69g/m2
  2. TANOSEE αエコペーパー タイプR100 A4:白色度68%、坪量66g/m2
  3. コクヨ KB用紙 低白色再生紙 66g A4:白色度68%、坪量66g/m2

1. は2006年に天体スケッチを初めて以来、使っているものです。 特に何も考えずに大学生協で売っていたコピー用紙を使っていたのですが、これが偶然良かったのでした。 2014年にハワイに転居してから同じようなコピー用紙が入手できず困ったので後輩に品名・型番を大学生協で調べてもらい、同じものを500枚×5冊購入しました。 今のところ十分な在庫があります。 ただし2021年現在は市販されていないようです。

2. は 1. の後継モデルのようで、2021年現在も市販されています。 また 3. も同じ白色度のコピー用紙ですが、こちらは500枚単位で買えるようです。

なお「白色度70%程度以下」の古紙パルプ100%のコピー用紙紙というのは「グリーン購入法適合品」というもののようで官公庁向けの大きな文具店等で入手できると思います。

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3. 天体スケッチの倍率

私は視野内に見えている天体とその背景の星をそのままスケッチ用紙の直径75mmの円に描くようにしています。 そのため天体スケッチの倍率が低いと視野内に見える星の数が増えてしまいスケッチが大変です。 実際天体をスケッチする時間よりも周囲の星のプロットをする時間の方が長いです(概ね星のプロットに20分、天体に10分程度)。 しかし星をいい加減にプロットしてしまうと天体との位置関係が破綻し、一気にリアリティがなくなってしまいます。 そこでプロットする星の数を減らすため私は可能な限り高倍率で天体スケッチしたいといつも考えています。

また眼視全般に言えることですが星雲星団や銀河といった淡い天体だからといって必ずしも低倍率が良いとは限りません。 低倍率だと瞳径が大きくなり、背景が明るく、目的の天体が見えにくくなります。 一方である程度の高倍率で見ると背景は適度に絞まって暗くなり、天体からの光がコントラストよく見えるようになります。 細かい模様も見分けやすくなります。 そしてなにより、どうもヒトの目は淡くて小さいものは見えないようで、ある程度拡大することではじめて見えてくるようです。 もちろん天体が見えなくなってしまうような高倍率は使えませんが、色々とアイピースを変えて、最も良く見える倍率を探して天体スケッチすることが重要と思います。

なお大気の状態(シンチレーション、シーイング)によっても天体の見え方は大きく変わります。 これまでの経験から惑星を見たとき縞模様が何本も見えるような良シーイングの日には銀河や星雲星団も高倍率で見ると驚くほど細かい構造が見えるような気がします。 しかし惑星の模様が全く見えないような悪シーイングの日はいくら倍率を下げても銀河など淡い天体がまったく面白くない、より正確に言えば銀河など淡い天体自体はシーイングが悪くてもそこそこ同じように見えているはずなのに、視野内の星が肥大したり暗い星が見えなくなったりすることで銀河など淡い天体もよく見えていないように錯覚するようで、とにかく見ても面白くないと感じます。 そのため天体スケッチの倍率はその日の大気状態でも制限されるといえます。

もっとも、一つの倍率だけでなくいろいろアイピースを変えて倍率を変えて天体を見るのが良いです。 色々と倍率を変えて見てみるとその後は脳内で情報を補完するためなのか高倍率で見つかった構造が低倍率でも見えるようになります。 観望も後半になってくるとアイピースの交換がめんどうになって、つい同じ倍率で見続けてしまいがちです。 しかしこれはとてももったいないことです。 色々とアイピースを変えて一番気持ちよく面白く見える倍率、使うことのできるもっとも高い倍率を探すというのが眼視や天体スケッチでは大切なテクニックだと思います。

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4. 先入観について

天体スケッチをしていると先入観というものが結構やっかいなものだと再認識させられます。 渦巻き銀河だと知っていれば「腕のようなもの」が見えたり、見える「はず」の位置に天体が見えなくても「見えるような気がしたり」します。 これらは自分の目で見えるか見えないかのぎりぎりの表面輝度の特徴を捉えようとして、淡い天体の光と自分の知識や気持ちを脳内で合成して、 天体が「見える」ようになってしまっている結果だと思います。 ある意味これは淡い天体を見る「超増感法」とも言えるもので、初心者に比べ経験を積んだ天文マニアが淡い星雲を簡単に捉えられるといったことと同じ現象ではないか思います。

しかしこういった天体の「先入観」とは天体写真から得た知識によって作られているのではないでしょうか? 天体写真は確かに正確に細かい模様まで写ります。 ですがこの模様が等しくヒトの目でも見えるとは限りません。 主に天体写真でよく写る波長(656 nm、HII領域)とヒトが夜間に良く見える波長(500 nmあたりがピーク)が異なること、天体写真と比べるとヒトの目の方がダイナミックレンジが広いことが違いを生む理由と思います。 さらにヒトの目には個人差があり、同じ日に同じ望遠鏡で見たとしても、人それぞれでも見え方感じ方が異なるはずです。

天体写真による先入観だけでなく、銀河や星雲といった分類やその天体の物理的な理解からくる「先入観」もあります。 例えば以下の M83 (NGCN5236) の天体スケッチでは北(上)のあたりの腕がぐるっとループするように見えていてなんだか違和感を感じました。 これは棒渦巻銀河の形のイメージ、綺麗に渦を巻くような形の先入観があるから感じたのだと思います。 ただし後から天体写真と見比べたところ、これは実際にM83がこのような形をしているようで、スケッチは正しく描けたようです。

M83 (NGCN5236)のスケッチ M83 (NGCN5236)のスケッチ
M83 (NGCN5236)の天体スケッチ

一方で以下の M101 回転花火銀河 (NGCN5457) の天体スケッチでは北東(左上)あたりに見えない腕を描いてしまいました。 暗い星を誤って星雲状の腕と思い込んで描いたのだと思います。 これはフェースオン銀河の形のイメージ、均整が取れて綺麗に渦を巻くような形の先入観があって、このあたりにも腕があるはずだと思い込んでしまったのが原因だと思います。

M101 回転花火銀河 (NGCN5457)のスケッチ M101 回転花火銀河 (NGCN5457)のスケッチ
M83 (NGCN5236)の天体スケッチ

「先入観」を排除して天体を見ないと、思い込みで見えていないものを描いてしまう可能性があります。 そのため私は天体スケッチを描くときはその天体の写真やコメント等はできるだけ見ないよう心がけています。 先入観を排除して、望遠鏡を覗いて見たそのままの姿、感じたままの形を記録したいと考えています。

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5. 天体スケッチの描き方

どのように天体スケッチを描いているか、ここでは M104 ソンブレロ銀河 (NGCN4594) を例に私の天体スケッチの描き方を紹介します。

M104 ソンブレロ銀河 (NGC4594) のスケッチ
例: M104 ソンブレロ銀河 (NGCN4594)

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5.1 視野内をよく観察する

天体導入後、まずは色々とアイピースを交換して天体をよく観察します。 「面白い形だな」とか、「こんなふうに見えるのか」といったなんらかの「感動」のあった天体を私はスケッチするようにしています。 アイピースは色々と変えてみます。 倍率が低すぎると細かい模様が良く見えず、また星の数が多すぎてスケッチが大変です。 一方で倍率が高すぎると視野が暗くなり、また天体も良く見えなくなります。 色々とアイピースを変えて適度な倍率を探します。 私はいったんこの倍率を決めたら最後までその倍率でスケッチしています。 この例では450倍で描くことにしました。

この段階では実はまだ天体の詳細は良く見えていません。 具体的にスケッチ中にここはどうなっているかなと考えながら見ていくことで、細かい所がどんどん見えてくるようになります。

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5.2 スケッチの基準を決める

天体スケッチではスケッチする対象とその周囲の星の位置をできるだけ正確に記録する必要があります。 そこで視野内に見えている天体の位置の基準とし、以下に挙げるような視野内にある2つの天体を基準としてスケッチを描きます。 これで天体の位置と大きさが正確に記録できるようになります。

1つ目の基準は多くの場合スケッチの対象とする天体で、視野円のまん中に描きます。 恒星状の場合は点を、淡い天体の場合はひとまず鉛筆で淡い点を描きます。 スケッチ対象が複雑な形をしている場合など中心が分かりにくいものはスケッチ対象近くの恒星を視野円の中心にしてスケッチするほうが正確に描ける場合もあります。

2つ目の基準は1つ目の基準を視野中心として視野端付近でアナログ時計の0時、3時、6時、9時のいずれかの位置付近にある明るい星を1つ選び、これを基準として使います。 視野中心からの位置は視野中心と視野の端を基準に視野半径のどれぐらいの位置に見えているかをよく見てスケッチ用紙に点を描きます。 スケッチ用紙を回転させてたり頭をひねって見る角度を変えたりしながら、正確に記録しやすい位置の星を選んでそれをスケッチ用紙に描きます。

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5.3 明るい恒星をプロットする

視野内に見える恒星をプロットしていきます。 明るい恒星の位置は1つめの基準を視野中心にして2つ目の基準からの「角度」、1つめの基準と視野端との「距離」を見て正確に記録します。 具体的には1つめの基準を視野中心にして次にプロットする星の「角度」を2つ目の基準から時計回り・反時計回りで何度あるか調べます。 さら1つ目の基準と次にプロットする星の「距離」も視野半径を基準としてどれぐらいあるかを調べます。

例では視野中心付近の明るい恒星をプロットする時に、角度は反時計回りに約120度、距離は視野半径の半分の半分ぐらいと見積ってプロットしました。 このような方法で明るい恒星の「角度」と「距離」をできるだけ正確に記録しプロットしていきます。 明るい恒星はできるだけこの方法でプロットした方が位置を正確に記録できるように思います。

なおドブソニアンなど追尾のない望遠鏡では日周運動で天体がどんどん視野から外れていきます。 そこで少し先回りした位置にスケッチ対象を導入し、視野中心になった時にその位置関係を記憶してスケッチ用紙に描くことになります。 見ている天域や倍率にもよりますが、明るい星は3~5個ぐらいプロットできていれば良いと思います。 なおまだこの段階では明るい星は位置の記録に留め、強くプロットしない方が良いです (後で修正が必要だと気付いたときに綺麗に消せないため)。

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5.4 暗い恒星をプロットする

次に暗い星もプロットしていきます。 暗い恒星も 5.3 の方法でプロットしていけば良いのですがこれだと時間がかかりすぎます。 そこで 5.3 でプロットした明るい恒星を基準にして暗い恒星を相対的な位置関係を記憶しスケッチ用紙にプロットしてきます。 いびつな三角形やいびつな台形、一直線に星が4つ並んでいるなど、そういった暗い星が作る形を 5.3 でプロットした星を基準に書き込んでいきます。 例では潰れた2等辺三角形といった特徴的な並びから暗い星の位置を相対的に記憶しプロットしました。

星の多い領域では見えている暗い星の全てをプロットすることはほぼ不可能ですがスケッチ対象の中心や端など天体の特徴を捉える上で重要となる位置の星はできる限りプロットするようにします。 高倍率では5~10コぐらい、低倍率では20~30個ぐらいプロットできれば自然な仕上がりとなります。

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5.5 恒星の仕上げ

視野内の恒星を3段階ぐらいに分けて明るい星は強い筆圧で鋭く鉛筆を乗せて濃くしていきます。 ここで星図のように明るい星を大きく描いてしまうと不自然なスケッチとなってしまいます。 明るい星もできるだけ面積は大きくならないように鉛筆を強く押し当てて「濃さ」で星の明るさを表現します。 星の位置がズレて楕円や二重星のようにならないよう注意して鉛筆を重ねる必要があります。 これで恒星のプロットは完了です。 私の場合は概ねここまで15分から20分ぐらいかかります。

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5.6 対象のスケッチ

そしてようやく対象のスケッチです。 スケッチ対象を中心または明るく特徴的で描きやすいところから描いていきます。 先にプロットした星との位置関係を頼りに明るいところ、大きな構造、特徴的な構造といったところからまず描いていき、次に淡いところ、はっきりしないところを描いていきます。 そうっと鉛筆でスケッチ用紙を掃くようにして淡い構造を表現します。

この段階で天体の細かい構造がどんどん見えてくることになります。 天体の構造や濃淡、周囲の星との位置関係を意識して見て、考えて、それをスケッチすることで天体の詳細が見えてきます。

納得いくまで鉛筆を重ね、描いていきます。 暗黒帯のようなぽっかりと空いた「黒い穴」のようなものは難しいです。 微かな淡いガスの流れなどはスケッチ用紙を照らす赤色照明が暗すぎると濃く描きすぎることもあるので照明の明るさを変えたりして描きます。 本当に淡い対象を見るときにはスケッチ用の赤色照明さえも邪魔になることがあるのでその場合はOFFにしてアイピースを覗き、ONにして描くを繰り返します。

一通り描けたら最後に視野中心付近をもう一度見て、必要ならさらに鉛筆を乗せていきます。 指でスケッチ用紙を擦って線をぼかして星雲がなめらかにして自然にします。 視野全体とスケッチ用紙全体とを見比べて「こんなもんかな」と思えるところまで描ければ、これで対象のスケッチも完了です。

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5.7 データの記録

恒星の形や明るさをチェックして、形が歪だったり滲んでいたら鉛筆を重ねて恒星らしくします。 最後に方角を忘れずに記入します。 天体が日周運動で動いていく方向が「西」です。 スケッチ対象を視野中心にしてしばらくそのままにして日周運動で視野から外れていく方向を確認して逃げていく方向に印を入れて W と記入します (ただしあとで星図と比較すると西がズレていることが多い)。

私の場合、あまり構造のない簡単な天体なら30分ぐらい、明るいメシエ天体のような構造がよくわかる天体だと1時間~2時間ぐらいです。 望遠鏡で見るのを止めた後に、天体名、スケッチ終了時刻、観望場所、使用機材、コメントといった情報をスケッチ用紙に記入します。 先入観を避けると言う意味ではコメント記入前もまだガイドブックは参照しないほうが良いと思います。

全ての記入が終わったらスケッチ用紙をクリアファイルに入れます。 その後ガイドブックや天体写真と見比べて「答え合わせ」をします。 どれぐらい正確にスケッチできたかを簡単に確認します。 またガイドブックなどに書かれた矮小銀河など見落としがあれば再び見て確認することもあります。 ただし天体スケッチに間違いがあることに気が付いても私はぐっと我慢して一切修正は行わないことにしています。 これで天体スケッチは完成です。

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6. パソコンへの読み込み

描いた天体スケッチはそのままでも良いのですがパソコンに読み込んで白黒反転させると望遠鏡で見たイメージに近くなって面白いです。 またせっかくパソコンで読み込むのであれば Aladin Lite 等の星図やデータベースを参照して方角を合わせ(北を上にするのが一般的)、天体データやコメント等と一緒にまとめると良いと思います。 このウェブエージ(趣味の天文)ももともと天体スケッチをまとめるためにHTMLを勉強したのがきっかけでした。

私のやり方ですが、天体スケッチをスキャナでパソコンに読み込み、Photoshop Elements を用いて以下の手順で白黒反転と視野回転を行い保存しています。

  1. [ファイル] → [読み込み] → [CanoScan LiDe70...]
  2. グレースケール、300dpi、画像設定(輪郭強調等)はすべてOFFで適当にトリミングして読み込み
  3. [フィルタ] → [色調補正] → [階調の反転] で白黒反転
  1. [ウインドウ] → [ツールバー]、[レイヤー] で、ツールバーとレイヤーを表示させる
  2. [ツールバー] の [楕円形選択ツール] でおおざっぱに視野円を囲む
  3. 画像を右クリックして [選択した範囲をカットしたレイヤー] を選択し、切り抜く(レイヤーが新規に作られる)
  4. [レイヤー] から背景を右クリック、削除
  5. [イメージ] → [カンバスの回転] → [角度入力] で西を右(北を上)に回転
  6. [レイヤー] → [新規] → [レイヤーから背景へ] で背景(黒)にする
  7. [ツールバー] → [切り抜きツール] で範囲を選択し、右クリック「切り抜き」してトリミング
  1. [ファイル] → [保存] で保存
  2. [ファイル] → [web用に保存] を選択、[画像サイズ] で幅を500pixel、画質50を選択、ウェブ用に保存

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6.1 スキャナについて

スケッチをパソコンに読み込むスキャナは2006年から2015年までは CanoScan LiDE70 、2015年からは CanoScan LiDE220 を使用しています。 これらのスキャナの製品仕様は入力 16bit、出力 8bit となっています。 これらに対し2015年に購入したプリンタ複合機 MF4890dw のスキャナは入力 8 bit、出力 8 bit で思うような階調(特にグレーの滑らかさ)が思うように得られませんでした。 よってスキャナは何でも良いと言うわけではなく、入力16bitのものを購入するのが良いと思います。

C30 (NGC7331)のスケッチ C30 (NGC7331)のスケッチ
C30 (NGC7331) の天体スケッチ、(左)LiDE220、(右)MF4890dwでスキャン

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7. 天体スケッチの応用

このページに書いた天体スケッチの方法ではアイピースの視野より大きな天体はスケッチできません。 それはそれでアイピースで一度に見えないのだから望遠鏡で見た天体のイメージの限界と言えると思うのですが、眼視では望遠鏡を振り回して大きく広がった天体を見ることもあります。 また低倍率にすれば視野に入るものの、倍率を上げて詳細構造を見たほうが面白い天体もあります。 こういった天体はこのページに書いたような方法でスケッチすることはできません。

そこでいくつか天体スケッチを応用について考えてみました。

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8. 視野回転について

ドブソニアンのような経緯台で天体スケッチを行う場合には視野の回転が問題になります。 経緯台では望遠鏡は「方位軸」と「高度軸」の2つの軸を同時に動かして天体を追尾することになりますが、それに伴って望遠鏡の「視野」も回転することになります。 観望だけなら視野が回転しても特に問題にはなりません。 しかし天体スケッチの場合には星の位置や角度をスケッチ用紙に記録していくことになるため天体写真と同様に視野回転が大きな問題になります。

以下は北緯20度の観測地点で南中前後の視野回転を計算した結果です。 南中時に天頂付近を通過する赤緯15~25度の天体の場合、南中の30分前からスケッチを開始して南中30分後に完了した(合計60分かけて描いた)とすると、スケッチ開始から終了までの時間に視野は120度近く回転することが分かりました。

視野回転について

さすがにこれだけ回転するとスケッチ中にも視野の回転に気が付きますが、これだけの回転をキャンセルしながらスケッチ用紙に星の位置を正しく記録することは難しく、困難です。 そのため天頂付近を通過する天体の場合は天頂通過する30分以上前に完了するか、天頂通過して30分以上後に開始するようにしないとうまく天体スケッチできないです。 計算結果はこれまでの経験とも概ね一致します。

なお南中時に南天の中ぐらい(高度45~65度)を通過する赤緯-25~-5度の天体の場合、南中前後はほぼ東から西に動くだけで高度はほとんど変わらないため、直感的には視野は回転しないように思うのですが、計算結果が示すとおり、この場合でも視野は回転することになります。 概ね1時間で20~30度程度は回転することになります。

経緯台で南中前後の天体を見る場合、多かれ少なかれ、視野は必ず回転することになります。 天体スケッチはできるだけ観測条件が良くなる南中前後に描きたいところですが、実は南中前後はどんな天体でも視野回転してしまう時間帯でもあると言えます。 よって天体スケッチは視野回転のことに留意して、具体的には手早く30分程度で天体スケッチを描いたり、または南中前後の時間帯を避けたりするといった工夫が必要と言えそうです。